英国だよりFrom the United Kingdom洋平君の作文奮闘記 |
○ はじめに
1.「日本と英国の障害者」 2.「小さな親切」 3.「真の友情」 4.「ふろしき」 5.「僕の中学校生活」 6.「食器」 |
7.「オリンピック」 8.「僕の長所」 9.「将来の夢」 10.「海外生活」 11.「高校生活への抱負」 12.「イギリスと日本」 |
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作文打出の小づち・
総もくじ
作文編 国語編 小論文編 閑 話
○ はじめに
洋平君は中学3年生。2001年1月現在、彼はイギリスにいて、日本の高校を受験する準備を進めている。
目指すは文武両道で知られる私立の進学校である。
練習課題は、題名だけのものと文章を読んで考えを書くものとの二種類をおよそ半々にし、
字数は受験先の傾向に合わせて「600字程度」とした。
答案の送受はもっぱらファクスによって行っている。
洋平君ロンドンの北方50キロ余りの所にある町に家族とともに住んでいる。
英国暮らしをするようになったいきさつは第5回の答案に書かれているので、
その答案から紹介することにしよう。
(Jan.31
'01)
枠内の左側が答案文で、右側が添削例(←印)や注意事項(※印)である。
十五年間生きてきて、ここ3年余りが一番内 容の濃いときのように思う。 小学六年生の夏に、父の仕事の関係で家族 でイギリスへ引っ越すことになった。そして、八 月十五日、僕たちは日本を発った。どのような 生活を送るのか少し楽しみだった。 イギリスに来たばかりのときはミドルスクール という日本でいう小学校に2年間通っていた。 そして英語が少し上達するとともに、僕はアッ パースクールという、日本でいう中学校に進学 した。同級生も三倍ほど増え、友達もそれだけ 多くつくれたが、田舎の学校のためか、自分に 近い人種は同級生に一人、他の学年にも四、 五人と、非常に少数で、あまり融和できなかっ た。しかし、その違和感は友達とコミュニケーシ ョンをとることによって消えた。 アッパースクールに進学してからの一番大き な問題は授業を理解することだった。数学は数 字と基本的な単語で理解するのは容易だった が、英語の授業には苦労した。 この三年間で僕の英語はかなり上達したと思 う。最初はあいさつ位しかできなかったのが、 今ではある程度コミュニケーションをとれるよう になったからだ。イギリスでの生活を満喫でき てとても良い思い出になると思う。 |
← という、日本で ← そして、英語が ← (そのもどかしさは友達と) |
この答案は、実は、書き直したほうのものである。
英国暮らしのいきさつを紹介するために、読みやすいほうを先に出してみた次第である。
もとの答案は次のようなものであった。
十五年間生きてきて、小学六年生の夏は とても内容の濃いときだった。それは、父の 仕事の関係で家旅でイギリスへ転勤するこ とになったからだ。どのような生活をおくるの か、少し楽しみだった。 八月十五日、僕達は日本を経った。イギリ スに来たばかりのときはミドルスクールとい う日本でいう小学校に二年間通っていた。そ して英語が少しづつ上達すると共に、僕はア ッパースクールという日本でいう中学校に進 学した。同級生も三倍程増へ友達もそれだけ 多くつくれたが、田舎の学校のためか、自分 に近い人種は同学年に一人、他の学年にも 四、五人と非常に少人数であまり融和できな かった。しかし、その違和感は友達とコミュニ ケーションをとることによって消えた。アッパー スクールに進学してからの一番大きな問題は 授業を理解することだった。数学は数字と基 本的な単語で理解するのは無難だったが、英 語の授業は苦労した。まず、難かしい単語が 多いこと、そして先生は生徒が皆イギリス人 なので普通に話をする、このような点で英語 の授業には苦労した。 この三年間、僕の英語はかなり上達したと 思う。最初はあいさつ位しかできなかったの が今では友達とある程度コミュニケーションを とれるようになったからだ。とても良い思い出 になり、イギリスでの学校生活を満喫できた と思う。 |
← ※ 「最も充実しているのは、ここ 二〜三年」ではないのかな。 ← 家族でイギリスへ引っ越す ← 日本を発った。 ← という、日本で ← そして、… ← という、日本で ← 増え、 ※ 「アッパー」の所で改行する。 ← 数学は、数字と ← 理解するのは容易だったが、 ← それに、先生は ← 話をすること、このような ← あいさつくらいしか ← できなかったのが、今では ← イギリスでの学校生活を満喫でき て、とても良い思い出になった。 |
「講評」では、出だしと結びの部分について、書き直しの指示をしておいた。うまく直っている。
通常、送られてきた答案には朱(赤ペン)を入れ、「講評」(別紙)を添えて返送する。
右枠の中の添削例や注意事項は赤ペンで書いたものの一部で、ここでは可能な限り収載していくことにする。
「講評」は必要に応じて枠を設け、
簡単な注意にとどまるときは説明(この文脈)の中で触れることにする。
もうあと20日ほどで受験というころ(Feb.
1)の答案である。11回目ともなると、書き方の上で注意することはあまりない。
この高校に入学できたら、クラブ活動を一 生懸命やりたいと思う。また、勉強のほうで は放課後の補校にも参加しようと思う。 クラブ活動はバスケットボール、またはサ ッカーをやろうと思う。バスケットボールはイ ギリスの学校でチームに入っており、色々 なことを覚えた。例えば、レイアップのやり 方、シュートの仕方などだ。しかし、好きだ ったバスケットボールの先生が学校をやめ てしまったため、僕は1年ほどやったあと、 チームから降りてしまった。サッカーは、イ ギリスの学校で休み時間などに友達とした。 イギリスはサッカーの母国というためか、皆 非常に上手だ。僕は自分の趣味として、暇 なときなどに庭でサッカーをしている。自分 では上手だとはいえないが、サッカーが大 好きになった。 この高校には放課後に補校があるという のが非常に気に入った。僕は三年半イギリ スにいたため、この学校で皆に追いつくの は意外と時間がかかると思うからだ。英語 はできても数学は大の苦手なので、ぜひ補 校に参加し、皆に追いつくように一生懸命が んばろうと思う。 芸術科目では、音楽か美術のどちらかを 選択できるので、僕は美術をやろうと思う。 それは、将来カーデザイナーになるという夢 があるからだ。 イギリスの学校ではクラブ活動を中途半 端なところでやめてしまい惜しく思っている ので、この学校に入学でき、クラブ活動を始 めたら、中途半端なところでやめるのはや めようと思う。 |
← 補講 ← 補講 ← 追いつくのに少し時間が ← 補講 ← 惜しかったと思っているので、今度は、クラブ活動を始めたら |
一、内容と構成 構成が実によい。第一段落でやりたいことを二つ挙げ、そのそれぞれを第二、第三段落で順に詳しく述べているので、やりたいこととそのわけが実によく分かる。 第四段落は、字数を満たすために入れたと思われるが、美術のことが不自然でなく収まっている。 二、表記と表現 第三段落の3〜4行目と第五段落の2〜4行目については、間違いというわけではない。よりよい表現のための参考までに。 |
英語と数学で得意・不得意がその前の「5」の答案とは逆になっている。
日本の学校の情報、ないし噂が耳に入っていて、それが頭をよぎったのだろうか。
ちなみに、洋平君の英語の力は英検2級である。
答案について、直すべきは漢字一つだけなので、書き直して返送する必要はない旨を伝える。
いくつかの課題や課題文の中から、洋平君が最初に選んだのは、次の問題文だった。
これは3年前の、中央大学付属高の出題である。
〔設 問〕 次の文はある中学生の新聞への投書です。この文をよく読んで、あなたの思うところを800字以内で述べ、内容にふさわしい題を12字以内で記してください。 点字の缶見て障害者考える 先日、父がビールを飲んでいた時、一つのことに気づいた。 ビール缶のフタのところに「ビールです」と書いてあってデコボコがついている。点字だ。私はその時、ハッと思った。「飲み物を選ぶにも苦労している人がいたのかもしれない」と。 私はお店に入って、何気なく飲み物を選んで買っているけれど、それに手間ひまかけてしまう人もいることに初めて気付かされた。 だから、不便で困っている人がいることに気付いたビール会社を尊敬した。その一方で、不便をしていた人たちは、今までどのようにしていたのだろう、と思った。 自分が不自由でないと、人の不自由には気付かない。私は、障害のある人を「大変そう」と思うだけで、何が大変なのか分かっていなかったと思う。 また、「障害者への手助け」を気付いた時にいちいち感心してしまうほど、まだ「障害者への手助け」はありふれていないのだ。困っている人を助けるのは当たり前のことだ。だけど、今の日本はそれが足りないと思う。 ビール缶は、私を感心させたとともに、今の日本の障害者問題の実態を教えてくれた。 |
最初の答案は10月の下旬に送られてきた。
日本と英国の障害者 最近障害に関するものをよく耳にする。例 えば、最近読んだ本で「五体不満足」、テレ ビで先日見たパラリンピック。ここでは僕が 体験したことに基づいて「点字の缶見て障 害者考える」の感想を書こうと思う。 僕の通っている現地校に障害者は約十人 前後でそのうちの一人が僕と同学年の女子 だ。しかし彼女は障害者だというのにもかか わらず、皆と同じ教室で同じ授業を受けてい る。日本人である僕から見れば何とも驚きの 光景だった。なぜなら日本で通っていた学校 の障害者は、皆違う教室で違う授業を受けて いたからだ。そのため僕はこれが当たり前か と思っていた。また日本で駅の近くを歩いて いても、まったくと言っていい程、障害者と遭 遇することは無い。しかし、英国では、以外と いたる所で障害者と遭遇する。決して英国は 障害者は多いわけではない。ただ日本人の 障害者に対する思いと英国人の障害者に対 する思いは百八十度違っている。それによっ て遭遇する数も変わってくる。日本人はなぜ か彼らに対して別の存在であるような行動を とる。「点字の缶見て障害者考える」ではビ ールの缶に点字が記されていると言ってい る。また、日本ではいたる所に点字が記さ れている。しかし英国では点字を見たことが 一度も無い。つまり、英国人は人間は皆平 等だと思っている。「点字の缶見て障害者考 える」この作品は僕が英国に来て今こうして 英国と日本との障害者に対する思いを比較 して実感したことだ。 日本では今点字などを記入し障害者たち に豊かな送ってもらおうとする努力が感じら れる。しかし、人間は平等なのだから障害者 に対する思いを変えてほしい。 |
← よく目にする。 ← パラリンピックなどだ。 ← 約十人いる。そのうちの ※ 「しかし」を削除。 ← …からだ。当時はそれが ← 意外と ※ 「決して」で改行する。 ← …違っているため、それに ← 変わってくるのだ。 ※ 以下、「講評」参照。 ※ 点字のないのはよいことかどうかを考えよう。 ※ 何を実感したのかを明確に。 ※ 「講評」参照。 |
初めてにしてはよく書けている。
六年生の時から3年も海外生活をしているにしては、漢字もよく知っている。
ただし、ものの見方に気になる点がある。そこで、「講評」は次のようなものとなった。
一、内容と構成
○ 自分の体験に基づいて考えが述べられているのがよい。このような問題の場合、課題文をなぞる答案が多いのだが、それに比べれば、内容が実に豊かであるといえる。 ○ 構成もよい。特に第一段落の末尾の一文がよい働きをしている。課題文を読んだ上でのことであることを示すとともに、何について書くかの見通しを明らかにしている。 ○ 第二段落の中ほどの「日本人はなぜか……」のところは「僕たち日本人は……」としてみよう。その前の所で、日本での経験と判断が述べられているので、中ほどで態度が変わってしまったような感じがある。ここは、英国の側に立って日本を批判するよりも、英国に来て学んだことをもとに反省するという形のほうが好ましい。 そうすると、最後の一文も「……思いを変えたいものだ」というふうにもなるだろう。 二、表記と表現(省略) |
作文の試験で「考えを述べよ」とあれば、個々の考えは尊重しなければならない。
これに対して、書き直した答案では題が変わっていた。
平等である人間 最近、障害者に関するものをよく目にする。 例えば読んだ本で「五体不満足」、テレビで 見たパラリンピックなどだ。ここでは僕が体 験したことに基づいて「点字の缶見て障害者 考える」の感想を書こうと思う。 僕の通っている現地校に障害者は約十人 でそのうちの一人が僕と同学年の女子だ。 彼女は障害者だというのにもかかわらず、皆 と同じ教室で同じ授業を受けている。日本人 である僕から見れば、最初は何とも驚きの光 景だった。なぜなら、日本で通っていた学校 の障害者は、皆違う教室で違う授業を受けて いたからだ。僕はそれが当たり前だと思って いた。 また、日本では駅の近くを歩いていても、ま ったくと言っていいほど障害者と遭遇すること はない。しかし英国ではいたる所で障害者と 遭遇する。英国では決して障害者が多いわけ ではない。ただ日本人の障害者に対する思い と英国人の障害者に対する思いが違うのでは ないか。例えば、「点字の缶見て障害者考え る」にもあるように、日本では缶ビールに点字 を記入している。また駅でも点字をよく目にす る。しかし、英国では一度も点字を目にしたこ とがない。 確かに今の日本は「点字の缶見て障害者考 える」にもあるように障害者への手助けは不十 分だと思うが、だからといって点字を増やすと、 障害者は健常者から見て普通でないというよ うな感情をもたらすと思う。僕たち日本人はこ のような行動をとるが障害者たちにとっては非 常に便利なのかもしれない。しかし人間は平 等なのだということを念頭に置いておくべきだ。 |
← 例えば、読んだ本では ← 約十人で、そのうちの ← しかし、英国では ← また、駅でも ← 今の日本は、 ← …あるように、障害者 ← …をとるが、障害者 ← しかし、人間は |
点字の是非については論議を呼ぶところであろうが、一つの考えとして尊重することにし、「講評」は次の助言にとどめる。
二、表記と表現 ○ 読点(、)の打ち方 接続詞(そして、また、だから、しかし、……)の後。 また、「……であるが、……」や「……ので、……」の 「が」や「ので」の後。 |
洋平君が二つ目に選んだのは、次の練習問題であった。これは、当方で記事を選び設問したものである。
〔練習問題〕 次の記事を読んで、あなたの感じたこと・考えたことを、600字程度で書きなさい。 記事の中のどれか一つについて、あなたの体験を踏まえて書きなさい。 短い話をいくつか▲電車に乗っている小学校低学年の男の子とその父親。お年寄りが一人、乗ってきた。座っていた父親が、すぐ席を譲った。「お父さんの知ってる人?」と男の子。父親は答えた。「人生の大先輩だよ」▲満員電車で、赤ん坊が泣き出した。険しい視線が母親に集まる。と、年配の女性が母親に話しかけた。「眠いのかしらねえ」。母親は「うるさくてごめんなさい」と謝る。女性は続けた。「何を言ってるの。一番大変なのはあなたじゃないの。お母さんが一番つらいのよね」。社内の空気がやわらかくなった▲彼女は学校でいじめに遭っていた。周囲はみな傍観している。ある日、机の中に手紙があった。「独りだと思わないで。みんな言葉に出来ないだけだから」。「ファイト!」とメモも。「わかってくれている人がいる」との思いが、彼女を支えた▲北海道の広い道。おばあさんが渡っているうちに、信号が赤になる。寄り添うようにしていた小学四年くらいの男の子が、片手をあげ、止まってと車に会釈した。おばあさんが渡り終える。男の子は野球帽をとりぺコンとお辞儀した▲カキ、モモ、ビワ……。歩道沿いに果樹が並び、それぞれの季節、たわわに実る。土地の持ち主のおじいさんが、学校の行き帰りに子どもたちが自由にとれるよう、植えたのだ。木々の下の手入れされた花々も、人々を楽しませる▲以上は、「小さな親切」運動本部(〒101・0061東京都千代田区三崎町2−20−4)に寄せられた体験の、ほんの一部だ。いまの世にも、こんな話が豊かにある。人間は信じるに足ると確信できる▲(以下略) (朝日新聞「天声人語」:平成12年9月24日) |
さて、イギリスにはどんな親切があるのだろうか。
消えつつある親切 僕の選んだ文章は、ある男の子が道を渡ろ うとしている年寄りを助けるというよくある話で、 それほど感動も大きくないが、この文章は違っ ていた。 主人公である男の子は小学4年生という非 常に小さい子だというのにもかかわらず、止ま ってくれた車に会釈した上、渡り終えた後、帽 子を取りお辞儀をしたという今の日本の状態を 知っている僕には作り話のように思えた。しか し、実際にあった話だと分かった時は心を打た れた。 今の日本は非常に荒れている。特に若者は 不良がほとんどだと思う。また、日本の新聞を 読んでいると末生年が殺人を起こしたというニ ュースを以外と頻繁に目にする。このままでは 親切は消えつつあると思う。 日本と英国を比較してみても、末生年が殺 人を起こすといったニュースは一度も聞いたこ とがない。また、それぞれ概観が違うと思う。 僕の想像する日本の若者はズボンを思いっき り下げ、髪は茶色、片手にタバコといったもの だが、英国の若者は髪を染めている人もいる が、いわゆる日本の若者の様にだらしない格 好をした人はいないと思う。 文化的には優れているが、人助けは優れて いないのが日本の特徴であり、反省すべきこ とでもあるのではないか。 |
← ……という話だ。よくある話で、たいていはそれほど…… ← ……ということだ。今の…… ※ 「講評」参照。 ※ 「講評」参照。 ← 未成年者 ← 意外と ← 消えてしまうと思う。 ← …みても、イギリスでは未成年者が ← 外見、服装 ← ように ※ 「講評」参照。 |
日本の様子は、なるほど、こんなふうに伝わるものなのか思う。
それはともかく、内容には注意をしなければならないことが多い。
いろいろ問題が多い。大きくは次の2点である。 ① 意見の根拠が弱い。 ② ものごとの見方に片寄りがある。 ①については、事実について正確さを欠くところがある。例えば、第三段落の1行目の「特に若者は……」のところ、および、第四段落の若者像のところ。想像上のことを事実として扱っている。 ②については、イギリスはよくて日本は悪いと、前もって決めてかかっているようなところがある。 今後のために、この2点を改めよう。 ① 想像で話の前提を作るのではなく、事実を確かめて、それをもとに考えを述べること。 ② どの人どの国にも、良いところもあれば悪いところもあると考えること。 そして、自分を例外と考えるのでなく、「私たち日本人は……」という立場でものごとを考えてみよう。 書き方の上で大切なのは、「事実にもとづいて意見を述べる」ということである。まず、事実を挙げ、それについて考えを書くというところからやり直してみよう。 |
これに対して、題も事例もガラリと変えたものが送られてきた。
小さな親切 僕が選んだのは、道路を渡ろうとしている お年寄りを助けるという話だ。主人公の男の 子は小学4年生という小さな子であるのに、 止まってくれた車に会釈したうえに、渡り終 えた後帽子を取りお辞儀をしたということだ。 これが実際にあった話だと分かったとき、僕 は心を打たれた。 これほどの感動を受けたわけではないが、 親切という点で、僕がイギリスに来て学んだ ことがある。 僕の家族は頻繁に外出する。そこで必ず目 にするのはドアの所での光景だ。イギリス人 は次の人が入ってくるまでドアを支えている。 僕の通っている現地校でもこのような経験を する。僕も皆を見習い、このような親切をする。 そして、その後お礼が返ってくると、非常に気 持ちがよくなる。 また、最近現地校ではこんなこともあった。 車椅子に乗った人が何かによって横に倒れ た。その時僕は助けなければいけないと思っ たが、すぐには何もできなかった。すると、そ こを通りかかった僕よりも年下の人がこの人 を助けた。僕は自分が恥ずかしくなった。 僕がイギリスに来て、人に親切にする機会 は何度かあった。しかし、照れ屋の僕は親切 はできなかった。僕の選んだ話にあるように 小学生でも人に親切にする子がいる。年上 である僕はなおさら親切をしなければならな い。これに対して、僕は大いなる反省をしよ うと思う。そして、これからは因っている人が いたら、積極的に手助けをしようと思う。 |
← ……後、帽子を取って ← 次に入ってくる人がいると、その人が来るまでドアを ← ……かかった、僕よりも ← 僕は大いなる反省をしている。 |
この第2回では、かなり厳しい批評をしたのだが、途中でお父さんにメールで聞いてみたところ、
「一対一で指導を受けていることで、前向きな姿勢が出てきたように感じられる」
ということであった。
ファクスの調子もよい。洋平くんとのコミュニケーションに心配はなさそうだ。
今回は、いわゆる課題作文である。
真の友情 今から約三年前、僕は英語を学ぶため寮 生活を始めた。そこには英語を母国語としな い主にアジア系ばかりだった。 そこで作った友人は韓国人で今だに手紙 で僕とコミュニケーションをとっている。彼は当 時十六歳で、僕の兄であるかのように非常 に優しかった。寮生活では毎日のように宿題 がでた。そんなとき僕は彼の部屋へ行き、助 けを求めたりした。 彼と話をしているのは時間を忘れてしまうほ ど楽しかった。彼はどういうわけか日本のこと をよく知っている上、日本の漫画をも持ってい た。そして、よく日本語から英語に直したりし て、コミュニケーションをとった。 彼からは一年に二、三回の割合で手紙が届 く。そして、必ずプレゼントが同封されている。 チョコレート、雑誌、CDといったものだった。手 紙を読んでいても昔と変わらず楽しい。僕も手 紙が届いたら送るという形で頻繁に送ってい る。彼が送ってくれた雑誌は、車や韓国の文 化についてのものだが、韓国語なので写真を 見ながら想像して把握する。そして、これを話 題にして手紙を書くと、韓国の文化がよく分か るので、これについて手紙を書いた。しかし、 彼は質問したことを答えずに違うことを話題に して手紙を送ってくるのだ。 少しぬけている所があるが、彼は唯一の文 通相手なので、大事にしていこうと思う。そし て、彼は僕にとって真の友ともいえ、真の友情 を感じさせてくれる。 |
← …しない、主にアジア系の人たちがいた。 ← 今も手紙でコミュニケーション ← …へ行き、相談に乗ってもらったり、助けを… ← …いると、時間を ← 直すなどして ← 読んでいても、昔と ← 届いたら返事を書くという ← 想像で理解してみる。 ← 手紙に質問を書く。 ← …ことに答えずに、違う ← 送ってくることもある。 ← …あるが、彼とは心を開いて何でも話せる。僕にとって、彼は真の友情を感じさせてくれる唯一の文通相手 ※ 末尾の一行を削除。 |
いつもながら、事例がよい。構成もよい。付き合いの経過が具体的に順序よく描かれている。
表記・表現にも大きな間違いはないが、第一段落と結論部の表現に注意して書き直すよう伝える。
真の友情 今から約三年前、僕は英語を学ぶために 寮生活を始めた。そこに入っていたのは英 語を母国語としない、主にアジア系の人達 だった。 そこで作った友人は韓国人で今も手紙で コミュニケーションをとっている。彼は当時 十六歳で、僕の兄であるかのように、とても 優しかった。寮生活では毎日の様に宿題が でた。そんなとき僕は彼の部屋へ行き、相 談にのってもらったり、助けを求めたりした。 彼と話をしていると、時間を忘れてしまうほ ど楽しかった。彼はどういうわけか日本のこ とをよく知っているうえ、日本語の漫画をも持 っていた。そして、よく日本語から英語に直 すなどして、コミュニケーションをとった。 彼からは一年に二、三回の割合で手紙が 届く。そして、必ずプレゼントが同封されてい る。チョコレート、雑誌、CDといったものだ。 手紙を読んでいても昔と変わらず楽しい。僕 も手紙が届いたら返事を書くという形で頻繁 に送っている。彼が送ってくれた雑誌は、車 や韓国の文化についてのものだが、韓国語 なので写真を見ながら想像して理解に努め る。そして、これを話題にして手紙を書くと、 韓国の文化がよく分かるので、これについ て質問を書く。しかし、彼は質問したことを答 えずに違うことを話題にして手紙を送ってくる こともある。 少しぬけている所があるが、寮生活で同じ 経験をしてきた仲なので、彼とは心を開いて 何でも話せる。彼こそは僕に真の友情を感じ させてくれる人だ。 |
← …いたのは、英語を ← 韓国人で、今も ← 手紙を読んでいると、昔と |
洋平君は、こちらの添削例を引き写しているわけではない。
この結論部にあるように、自分なりに表現に工夫をしている。
こうあってこそ、やり取りに弾みもつく。
過去問に、こんなユニークなものがあったので、選択肢の一つとして入れておいた。
〔設問〕 次の文章を読んで、あなたの感じたことや考えたことを、600字程度で書きなさい。文章の内容を踏まえて、または、内容に関連する体験をもとに書くこと。 ① われわれの日常生活において使いなれているふろしきは、ごくありふれたものであるが、考えようによっては、実に巧妙な造形的考案物である。日常の用にはなはだ便利で、しかも、美術品である。いつごろ、だれによって発明されたものか、また、日本だけのものかつまびらかでないが、日本特有だと称される「ふろおけ」とともに、はなはだ日本的なものだといいうる。しかし、それだからといって、ことさらに自慢しうるほどに堂々たるものではないが、たしかに独特な特色は十分にもっている。 ② 同じ目的で使われているかばんやトランクに比較すれば、特別に便利な機能をもっていることは否めない。ふろしきは各種の形状をした品物を、しかも、任意の大きさの物を、すこぶる自由自在に包むことができる。この点において、かばんやトランクは実に始末に悪く、一定の幅と高さをもった以外のものは、収容が不可能となる。その上に、内容の容積が余分に残ったりする場合には、容量がひどく不経済となる。 ③ それに対して、ふろしきにはそんな不体裁はない。しかも、ふろしきは不用になった場合に不要になった場合に、それを簡単にたたんで、ポケットや懐中にしまいこみ、手ぶらとなることができる。こんな芸当はかばんやトランクには望みえない。それを考えると、ふろしきは手品のごときしろものであるといいうる。 |
今ふろしきと聞けば、物を包むのに使う布とい うのが当たり前だが、ふろしきを漢字に直して みると、風呂と敷に分けることができる。そして、 実際には風呂からあがったときに床に敷き足 を拭うのに使うものだと考えられる。何によって 今に至っているのかは僕にはいささかではな いが、多分、ふろしき以上に足を拭うのに適して いるタオルなどの普及によってだと思う。便利 な物が普及することによってふろしきは本来の 使い道が消えてしまったと考えられる。しかし、 他にはない優れている点がある。 まず、色々な大きさの物を自由自在に包むこ とができる。また、中身が無くなれば手ぶらに なることもできる。このようなことはカバンには 望みえない。 さて、こんなにすばらしい物は海外にもあって よさそうだが、一度も目にしない。まさに日本を 代表する代物といえる。 家では旅行に行くときなどふろしきを欠かさず に服などを包むのに使う。それによって服を汚 さずにすむ。 また、ふろしきは美術品でもある。色の鮮やか な物から色のじみな物まで多種多様だ。カバン と比べても非常に魅力的で味があると思う。 カバンには無い優れた点、カバンと比べても 非常に魅力的な点、まさに非の打ちどころのな いすばらしい発明といえる。 |
← 僕には定かではないが、(つまびらかでないが、) ※ 「タオルの普及」は「今に至る」の理由にならない。その「普及」によってなら、ふろしきは「廃れる」となる。 ※ 第二段落以下、終わりまでの部分について。 課題文に書かれていることと自分の考えとを区別する。 その他、「講評」参照。 |
「イギリスにおけるふろしきの位置」の話でも聞けるかと思ったが、そうはいかなかった。
それよりも、注意をしなければならないことがある。
いろいろなことを書いてあるが、全体としてのまとまりがない。課題文の内容を踏まえるか、それに関連する体験を踏まえるかして、もう一度書いてみよう。 〔構成例A〕 第一段落 − 問題文の要約 (※ 自分の考えを入れない) 第二段落 − ふろしきについての体験 (※ 意見を入れないで、事実だけを書く) 第三段落 − 体験したことについての意見や感想 (※ なるべく、体験を要約文に重ね合わせて締め くくる) 〔構成例B〕 第一段落 − ふろしきについての体験 (※ 事実だけを書く) 第二段落 − 体験したことと課題文の内容との比較検討 (※ 体験についての意見や感想でもよい) 第三段落 − 比較検討によって得られた意見や感想 |
これは少し難題だったようだ。
しかし、そろそろ「事実と意見」の書き分けを心得てもらわなければならない。
書き直しの答案が届いたのは、その2週間後だった。
このころ、お父さんが日本の病院で検査を受けるため、
一時帰国するということが送受信の合い間に伝わってきた。
課題である文章は、ふろしきの優れた点、ふ ろしきの特色について書かれている。例えば、 かばんやトランクと比較すると、ふろしきは様々 な大きさの物、また、各種の形をした物を自由 自在に包むことができる上、中身が無くなれば 手ぶらになれることなどだ。 僕の家族は長い休みになると旅行をする。 その時ふろしきを服を包むのに欠かさず使用 する。適量包めるし、服を汚さずに保つことが できる。 このような便利な物は海外にもあってよさそ うだが、一度も目にしたことがない。しかし、ふ ろしきの原産国の日本でも実際に使用してい るのをあまり目にしない。 僕の家族はふろしきの使い方を間違ってい ると思う。なぜならば、ふろしきの中に物を入 れて、それをかばんの中に入れるからだ。これ ではかばんの中にかばんをいれているような もので、ほとんど役に立っていない。 最近知ったことだが、ふろしきはもともと風呂 に敷き、足を拭うのに使っていたそうだ。しかし、 ふろしきは水の吸収性が今見てみれば悪いほ うだ。タオルなどのほうがこの点では優れてい る。つまり、タオルの普及によって、ふろしき本 来の使い道が消えてしまったのだと思う。 しかし、僕はふろしきについての文章を読ん ですごい物だと思った。百パーセント優れてい るとは言えないが、ある点ではすごいと思う。 |
← 課題文は、 ← いろいろな形の物を ← その時、服を包むのにふろしきを欠かさず ← 吸収性が、今では悪い ← いろいろな物が包めるという点ではすごい… |
課題文の内容と自分の体験とが書き分けられ、また、自分の考えは考えとして述べられているので、読みやすいものとなっている。課題文の内容も要領よくまとめられている。 末尾の「ある点」を具体的に書いておこう。(添削例参照) なお、ふろしきの語源については、風呂屋で床に敷いて、着替えや着ていた物を包むのに用いたもの、という説もある。 |
この後すぐに、第5回の「僕の中学校生活」が届き、3日と空けずに書き直しもする。
雪の便りがあって、第6回の答案が届いたのは大晦日だった。
〔設問〕 次の文章を読んで、あなたの感じたことや考えたことを、600字程度で書きなさい。文章の内容を踏まえて、または、内容に関連する体験をもとに書くこと。 長野県木曽郡楢川村の楢川小学校で、子どもたちと一緒に給食を食べた。手作りシューマイ、マカロニとツナのサラダ、豆腐とニンジンとミツバのお澄ましが、それぞれ朱塗りの漆器のお皿やお椀に盛られていた。器のせいか、格別においしい。後かたづけのとき、子どもたちが自然に両手で器を扱っているのに気がついた▲ことし四月から、村では二つの小学校で給食の食器を漆器に変えた。楢川は全国有数の漆器の産地。地元が生み出すよいものを子どもたちに味わってもらいたい。なにより毎日の生活のなかで、食べることを大事にしたいという百瀬康村長の発案だった▲どんな形と大きさなら子どもたちの手にしっくりなじむのか。専門のデザイナーに依頼し、工夫を重ねて飯椀と汁椀、大中二枚のお皿、小鉢の計五点に絞られた。ケヤキの木地に地元の職人が丹精込めて、六回も七回も漆を塗った。こうして仕上げた器は、昨年度のグッドデザイン賞に選ばれた。▲食器の開発にかかわった人たちの話を聞きながら、だれひとり「子どもだからこの程度で」という考えに立たなかったことに心を動かされた。一組が約二万円。プラスチックの十倍もする。それを四〇〇組。いまは無邪気に給食をほおばる子どもたちも、いつか、自分が大人たちから大切にされていたと気づくことだろう▲東京都立教育研究所が小学五年生以上の小中学生千九百人を対象に行った調査では、朝食を食べない子どもが二割近くいた。キレたりムカついたりという、いらいら感が強い子どもの五割以上が朝食抜きだった。子どもたちの三人に一人がひとりぼっちでごはんを食べている、という厚生省の調査もある▲毎日の食事と心のありようは、深くかかわっている。食の国フランスには、こんなことばがあるそうだ。<若者の食事を見ればその国の未来がわかる> (朝日新聞「天声人語」:平成12年10月1日) |
ファクスの記録は、"31-DEC-00, 11:22" となっているから、
こちらに届いたのは大晦日の夜の8時半頃である。
課題文は、長野県の村のある小学校での給 食に使用されている器についてだ。その村は 全国有数の漆器の産地でその小学校では給 食に使用する食器を漆器に変えたそうだ。そ れによって生徒たちが毎日の生活の中で食 べることを大事にするからだ。 僕が住んでいるイギリスも、北西へ二時間ほ どの所に食器の産地のストーク・オン・トレント という所がある。世界中で知られているウェッ ジウッドの工場もそこにあり、実際に家族で験 学に行った。一つ一つ手描きのものもあれば、 セロハンのような物を貼りつけるだけのものも ある。そして、欠点のないものだけが目の飛び 出るほどの値段がつく。欠点のあった物は、他 の店で手ごろの値段で売られている。 ぼくが日本の小学校に通っていたときの給 食は必ずプラスチックの食器に盛られていた。 プラスチックの食器は何の楽しみもなく、あまり 食が進まなかったという記憶がある。例えば 味噌汁がプラスチックの器に入っているときな どだ。しかし、家では木製の物を使うので食が 進む。 課題文にある朝食を食べない子供というの は、時間がないからとイギリス人の友達が言 っていた。しかし、僕には十分に時間があるの だから時間がない訳がないと思う。そして、朝 食を食べないことによってお腹がすき、いらい ら感が生まれてくるのだと思う。 |
← 変えた。…… ← …にしたいからだそうだ。 ← 家族で見学に ← …の食器には親しめなくて ※ 「食が進まなかった」理由の書かれているのがよい。 ※ 「講評」参照。 ← …ないからなのだとうと ← …だから、その子たちにも時間がないわけがないと |
元日は暇だったので、午後には見終えて、次の講評を添えて返送する。
第一段落 − 課題文の内容が手短に、よくまとめられている。 第二、三段落 − 事例がよい。ともに三重丸。文章も読みやすい。 第四段落 − 「朝食を食べない子供」の話は、食器についての話 に代えよう。 念のため、課題文に話題が二つ以上あるときは、そのうちの一つを選べばよい。 第四段落は、イギリスにも給食や、それに代わるものがあれば、それを入れ、食器についてもひとこと触れておこう。 ────────────────────── 明けましておめでとう。 |
この講評用紙には、これに続いて、作文にはかなり慣れてきていること、
話の選び方も書き方もぐんぐんよくなっていること、この調子でどんどん書こうということを書き添えた。
また、雪のたよりをホームページに載せたことと、
これを機に一連の作品を「イギリスだより」として載せたい旨を伝える。
洋平君からは、"01-JAN-01 15:24" 付で、
「ホームページを見ました。ありがとうございます。あの雪は新年になって雨で解けてしまいました。
作文がホームページに載るのはうれしいです」という趣旨のファクスがあり、
その3時間後に、書き直した答案が届いた。
深夜から2日の未明にかけてであった。
課題文は、長野県の村のある小学校での給 食に使用されている器についてだ。その村は 全国有数の漆器の産地で、その小学校では 給食に使用する食器を漆器に変えた。それに よって生徒たちが毎日の生活の中で食べるこ とを大事にしたいからだそうだ。 僕が住んでいるイギリスも、北西へ二時間ほ どの所に食器の産地のストーク・オン・トレント という所がある。世界中で知られているウェッ ジウッドの工場もそこにあり、実際に家族で見 学に行った。一つ一つ手描きのものもあれば、 セロハンのような物を貼りつけるだけのものも ある。そして、欠点のないものだけが目の飛び 出るほどの値段がつく。欠点のあった物は、他 の店で手ごろの値段で売られている。 ぼくが日本の小学校に通っていたときの給 食は必ずプラスチックの食器に盛られていた。 プラスチックの食器には親しめなくて、あまり 食が進まなかったという記憶がある。例えば、 味噌汁がプラスチックの器に入っているときな どだ。しかし、家では木製の物を使うので食が 進む。イギリスでも日本での給食と同じでプラ スティックの皿に盛る。 僕は一日の中で食事の時間が好きなので もう少し気のきいた食器を使用して欲しいと思 う。また、今までの経験から、食器がいかに食 に影響するかが解かった。そして食器には食 を楽しませ、美味しくさせる不思議な力がある と思う。 |
※ 次の第四段落の最初の文を第三段落の末尾にもってくる。 ※ 改行して、 ← この記事を読んで、食器がいかに食に影響するかを改めて考えた。食器には食を楽しませ、おいしくさせる…… |
イギリスの例が入って、内容に幅が出ている。
結論部はこのままでもよいのだが、注記を検討してみるよう勧める。
イギリスでは、オリンピックでどのくらい沸いたのだろうか。
〔設 問〕 次の文章を読んで、あなたの感じたことや考えたことを600字程度で書きなさい。 読者からの手紙に<五輪ほど うるさきものは 世には無し メダル メダルと 夜も寝られず>。そうした批判があるかと思えば、<素晴らしい日々をありがとう>との便りもいただいた。シドニー五輪が幕を閉じた▲新聞、テレビなどの報道が過剰気味、といった指摘も聞く。国内外にもっと大事なニュースはないのか、と。女子マラソンの優勝より、同じ日の巨人のセ・リーグ優勝の方に関心を抱いた、という声も届いた。まことに評価は人さまざまだ▲五輪とは、たくさんの人が自然な形で「世界」を見られる、またとない機会ーーなかに、こんな見方もあっていいかと思う。古い歴史を持つアボリジニーの人々の存在を、こんど初めて知った人もいるだろう。女子マラソンに個人参加したした選手のひたむきな姿は、東ティモールという新しい存在を印象づけた。▲「日本のマラソンは、我慢のマラソンです」。最終日、レース前のテレビはそう解説していた。日本選手の健闘が及ばなかったレース後、我慢だけでは世界に通用しないこともわかった。世界は広い。いろいろな人がいて、多用な国民性を持ち、多彩なうねりがある。一方で、日本のソフトボールの力は世界に冠たるものと、たとえばそんな、日本にとってうれしいあれこれも味わった▲むろん「光」だけではない。金の問題にせよドーピングにせよ、その他もろもろの「影」も見えた。エルサレムではまた流血の惨事が起こり、ユーゴスラビアは揺れた。世界の平和を掲げる五輪をよそに、時代の歯車は容赦なく回り続けているようにも映る▲しかし、選手たちが力いっぱい走り、跳び、泳ぎ……成功し、失敗し、喜び、涙する姿に、素直に感動した人も多かったに違いない。四年に一度の「力いっぱい」光景を目にしていると、こちらも元気や誠実さを分けてもらった気持ちになる。 (朝日新聞「天声人語」:平成12年10月2日) |
課題文は五輪に対する人々の評価、日本の 成果などについてだ。例えば、「五輪ほどうるさ いものはない」と言った人もいれば、その逆で 「素晴らしい日々をありがとう」といった人もい たそうだ。また、日本はマラソンでは駄目だっ たが、ソフトボールでは世界に通用するほどと いううれしいこともあったそうだ。そして、選手 たちの力いっぱいの姿を目にしていると、見て いる方も元気や誠実さを分けてもらった気持 ちになるといった結論を出している。 僕が住んでいるイギリスでも五輪は話題に なり、友達や先生も五輪について話をしてい た。そしてある日、こんなことが分かった。驚 いたことに、五輪に出ていた選手が僕の通っ ている学校に通っていたそうだ。テレビでは 何気なく彼女が走っているのを見ていたが、 まさか、僕の通っている学校に通っていたと は思いもしなかった。ちなみに、彼女は一万 メートル走の選手で、最終ラップまで一位と 好調だったが、最終ラップになると四、五人 に抜かれ、メダルはおあずけになってしまっ た。 五輪は僕にとって四年に一度の楽しみだ と思う。選手たちが一生懸命に競技に取り 組んでいるところを見ると、文章にある見て いる方も元気を分けてもらった気持ちになる というのは本当だと思う。そして、これだけ世 界中を揺らす大きなイベントはこれからも人 々に愛され続けると思う。 |
← その逆に ← 日本は男子マラソンでは……(女子では高橋尚子選手が優勝しているので) ← 通っていたというのだ。 ← 彼女が走っているのを何気なく見ていたが、同じ学校にいたとは思いも ← メダルには手がとどかなかった。 ← 僕は、五輪は四年に一度の ← …見ると、課題文にあるように、見ているほうも |
細かな点はさておき、模範解答といってよいほどの答案である。
構成も内容もよい。どこがよいかというと、まず、段落構成である。これを各段落のよい点とともに見てみよう。 第一段落 − 記事の中心となる事柄を拾い上げて、うまくまとめている。文章も整っていて、読みやすい。 第二段落 − 記事に関連する体験談は、いつもながら実によい。適当な話題が身近にあるのは幸運ともいえるが、話を選ぶ目が優れているといえる。 第三段落 ー 課題文にも触れて自分の考えを述べているので、全体のよい締めくくりとなっている。 その他、細かな点については答案の添削例を参照。なお、第二段落の終わりに、「テレビを見ながら、いつの間にか英国の選手を応援し、負けたときはとても悔しかった」とでも添えるとよいのだが、実際はどうだっただろうか。 ◎ 試験に課題文が出たら、この構成で書くことにしよう。 |
1回でこのくらい書ければ文句はない。念のため書き直しをして、次の答案にかかるよう伝える。
課題文は五輪に対する人々の評価、日本の 成果などについてだ。例えば、「五輪ほどうるさ いものはない」と言った人もいれば、その逆に 「素晴らしい日々をありがとう」といった人もい たそうだ。また、日本は男子マラソンでは駄目 だったが、女子のソフトボールでは世界に通用 するほどといううれしいこともあったそうだ。そ して、選手たちの力いっぱいの姿を目にしてい ると、見ている方も元気や誠実さを分けてもら った気持ちになるといった結論を出している。 僕が住んでいるイギリスでも五輪は話題に なり、友達や先生も五輪について話をしてい た。そしてある日、こんなことが分かった。驚 いたことに、五輪に出ていた選手が僕の通っ ている学校に通っていたそうだ。テレビでは 何気なく彼女が走っているのを見ていたが、 まさか、僕の通っている学校に通っていたと は思いもしなかった。ちなみに、彼女は一万 メートル走の選手で、最終ラップまで一位と 好調だったが、最終ラップになると四、五人 に抜かれ、メダルは取れなかった。テレビを 見ながら、いつの間にか応援をし、負けたと きはとても悔しかった。 僕は、五輪は四年に一度の楽しみだと思 う。選手たちが一生懸命に競技に取り組ん でいるところを見ると、課題文にある、見てい る方も元気を分けてもらった気持ちになる。 そして、これだけ世界中を揺らす大きなイベ ントはこれからも人々に愛され続けると思う。 |
← 彼女が走っているのを何気なく見ていたが、僕のいる学校にいたとは ← …見ると、課題文にあるように、見ているほうも |
洋平君からは、書き直しの答案に添えて、
「文章がなくて、題だけの場合はどうすればよいか」というファクスがあった。
「『真の友情』を書いたときの要領でよい。念のため、ホームページの『高校入試の作文』のページを見て
、<必勝のパターン>を参考にするように」と返信する。
折り返し、「次は『長所』について書いてみようと思う」と言ってきた。
多分、書くのに苦労するだろう。
そこで、参考のため、著書『作文試験・必勝のパターン』の例文集から、
「私という人」というパーソナリティーを述べた例文のコピーを送る。(例文は省略)
長所は、三つぐらいは書いておきたい。
長所と聞かれても自分では何とも言えない が、他の人で僕の長所を言っていた人ならい る。 僕は毎週土曜日、国語を学ぶために補習校 に通っていた。そこで担任だった先生は、通知 表にこんなことを書いた。「几帳面で授業も集 中して聞いているが、発言が少ない」と。しかし、 几帳面なのは外だけであって家ではその逆で、 机の上は参考書や紙くずの山だ。前にイギリス 人の友達の家へよく遊びに行っていた。そして、 そこでの第一印象は「だらしがない」ということ だった。まず、学校の制服は床に落ちていて、 ベッドの上はテレビゲームのソフトや他の物で ちらかっていた。 日本の友達の家もある家はだらしなく、几帳 面という気はしないが、ある家はそれなりにき ちんとしている。 僕は絵を描くのが好きで、暇な時などはよく 絵を描いている。また、現地校でも週に三、四 回は美術の授業がある。そして、自分では駄 作だと思う絵を友達は上手だと言う。そして、 ある日、僕が自分でデザインした車を見せた。 すると、友達はどうしてフォードに送らないん だ、億万長者になれるのに。というようなこと をよく言う。 時々、親が夕方まで留守だと、僕はサラダ位 は作っておく。そして、そんな僕を父はまめだ と言う。 自分では特に長所と言えることがないが、 他の人が言っていることが真実なのかもしれ ない。 |
※ 最初の3行は後ろに回すか、削除するかする。 ※ 「発言は少ない」を削除。長所だけを書けばよい。(以下、書くとすればこの程度で。「講評」参照) ← …外でだけなのかもしれない。家では机の上は参考書などがけっこうちらかっている。 ← …遊びに行った。そこでの第一印象は ※ この段落の3行は削除。 ← 自分では駄作だ……上手だと言うことがよくある。(※ 次の2文と入れ替え) ← すると、「どうしてフォード……なれるのに」という友達がいた。 ← サラダくらいは作っておく。そんな僕を ← 自分では自分の長所は分からないので、他の人が言っていることが真実なのだと信じることにしよう。 |
これは、やはり難しいようだ。
一、内容と構成 「几帳面」の話は少し苦しい。欠点は挙げないでよい。他の例をもってこよう。 「絵」の話はとてもよい。話す順序を少し変えてみよう。 「サラダ」の話もよいので、もっとふくらませてみよう。例えば、野菜の刻み方や配色、盛り付けなど、まめと言われる点を具体的に書くと、「几帳面」の代わりになる。 構成の上では、断り書きは書かなくてよい。先に事例(出来事)を挙げて、終わりに感想や考えを添えるとよい。そのほうが、読む人は読んでくれるし、意見や感想も書きやすい。 二、表記と表現 感じや送りがなの間違いはない。読点(、)の打ち方に注意しよう。 言い回しについては添削例を参照。 |
最初の申込み回数からすると、これが最終回であった。
僕は毎週土曜日、国語を学ぶために補習校 に通っていた。そこで担任だった先生は、通知 表にこんなことを書いた。「几帳面で授業も集 中して聞いている」と。しかし、几帳面なのは外 でだけなのかもしれない。家では机の上は参 考書や紙くずでけっこうちらかっている。。以前、 イギリス人の友達の家へよく遊びに行った。そ こでの第一印象は「だらしがない」ということだ った。学校の制服は床に落ちていて、ベッドの 上はテレビゲームのソフトや他の物でちらかっ ていた。他にもこんな友達は多い。それに比べ れば僕のほうがまだましかもしれない。 僕は絵を描くのが好きで、暇な時などはよく 絵を描いている。また、現地校でも週に三、四 回は美術の授業がある。ある日、僕が自分で デザインした車を見せた。すると、友達は「どう してフォードに送らないんだ。億万長者になれ るのに」と言う友達がいた。自分では駄作だと 思う絵を友達は上手だと言うことがよくある。 時々、親が夕方まで留守だと、僕はサラダく らいは作っておく。五、六種類の野菜を洗って 切り器に入れただけのごく普通のものだが、 そんな僕を父はまめだと言う。 長所と言われても自分では何とも言えないが、 他の人から見れば僕は長所のある人のようだ。 |
← 車の絵を ← …絵を、友達は ← …だけの、ごく普通の |
この答案の届いたのは1月の中旬だった。
試験までには、まだ約1か月ある、ということで、あと4回延長することになった。
洋平君の希望は当初は私立高校であったが、
お父さんが手術で入院するなどの事情もあって、このころから気持ちは公立高校に傾き始めた。
僕は五歳位の時、車の絵を描くのに興味を もった。父が車関係の仕事をしているためか、 僕は今でも車の絵を描いている。そして、将来 カーデザイナーになろうと考えている。また、 父も僕にカーデザイナーになってもらいたいら しく、会社からデザインについての本を借りて きてくれた。 車といえば、色々な種類があり、それなりの 問題もある。例えば軽自動車、セダン、ハッチ バック、ワゴン、ワンボックスなどだ。そして、問 題は車による排気ガスだ。僕は出来ればハッ チバック位の大きさの車をデザインしたいと思 う。まず、小さい方が環境によいからだ。なぜ ならば、大きければ大きいほど大きなエンジン が必要になり、それなりの排気ガスが出るか らだ。その逆で小さければそれなりに排気ガ スも少ないからだ。 前に旅行でスイスのツェルマットに行ったと きの第一印象は地球を大切にし、自然を大切 にしているということだった。そこにはガソリン で動く車は1台もいない。すべて電気自動車 だった。 これらのことを考えると、カーデザイナーにな るのは結っして簡単でないことが分かる。デ ザインするにあたってスタイルは何よりも大事 だと思うが、地球に優しいかどうかも大切にし なければいけないと思う。排気ガスによって 地球温暖化のような大問題があるからだ。そ して、この大問題を解決するような車を生産す るのが僕の夢だ。 |
← 五歳くらいの ← …種類がある。例えば、軽自動車、……などだ。車は便利だが、問題もある。一番大きな問題は排気ガスだ。 ← …と思う。それは、小さい……からだ。大きければ ← …になり、それだけ多くの ← その逆に、小さければそれだけ ← 第一印象は、地球を ← 1台もない。 ← …あるからだ。この大問題を |
一、内容と構成 書き出しに、五歳ころからの興味という動機をもってきているのがよく、結びの夢まで、全体としてよい組み立てとなっている。スイスでの見聞が入っているのもよい。 さらに、単にカーデザイナーにあこがれるのではなく、環境問題を中心にもってきているので、充実した内容になっている。 難を言えば、第二段落の文章につながりのないことである。添削例を参考にして、流れをよくしてみよう。 二、表記と表現 点の打ち方のほか、今回は接続詞(そして、なぜなら、など)の使い方を考えてみよう。添削例参照。 |
書き直した答案には次回の課題について、公立高校の課題に「海外生活」というのがあったので、
それについて書いてみたいという手紙が添えられてあった。
僕は五歳くらいの時、車の絵を描くのに興味 をもった。父が車関係の仕事をしているため か、僕は今でも車の絵を描いている。そして、 将来カーデザイナーになろうと考えている。ま た、父も僕にカーデザイナーになってもらいた いらしく、時々会社からデザインについての本 を借りてきてくれる。 車といえば、色々な種類がある。例えば軽 自動車、セダン、ハッチバック、ワゴン、ワンボッ クスなどだ。車は便利で、デザインを考えるの は楽しいが、問題もある。一番大きな問題は 排気ガスだ。僕は出来ればハッチバックくら いの大きさの車をデザインしたいと思う。それ は、小さい方が環境によいからだ。大きけれ ば大きいほど大きなエンジンが必要になり、 それだけ多くの排気ガスが出るからだ。その 逆に小さければそれだけ排気ガスも少ない からだ。 前に旅行でスイスのツェルマットに行ったと きの第一印象は、地球を大切にし、自然を大切 にしているということだった。そこにはガソリン で動く車は1台もない。すべて電気自動車だ った。 これらのことを考えると、カーデザイナーにな るのは決して簡単でないことが分かる。デザ インするにあたってスタイルは何よりも大事だ と思うが、地球に優しいかどうかも大切にしな ければいけないと思う。排気ガスによって地 球温暖化のような大問題があるからだ。この 大問題を解決するような車を生産するのが僕 の夢だ。 |
← 例えば、軽自動車、 ※ 「その逆に……からだ」を削除する。繰り返し」になっているので。 ← …あたっては、スタイル |
次の課題を「海外生活」とする。ただし、第5回の「僕の中学校生活」とは異なる内容で書くよう伝える。
答案には次の手紙が添えられていた。
「県立高校は字数が600〜900字なので、以前書いたことのある内容が含まれています。
600〜900字と言われたら、何字くらいを目安に書けばよいのでしょうか。
今回の作文は900字を超えてしまったので、どこを削ればよいか教えてください」
九七年八月十五日、僕の家族は父の仕事 の関係でイギリスへ引っ越すことになった。初 めはどのような生活を送るのか少し楽しみだ った。 イギリスに来て一ヶ月もしないうちに僕はホ ームステイすることになった。その頃の僕は あいさつくらいしかできなかった。ホームステ イ先の人たちは何もしゃべらなかった僕に対 し、違和感を感じただろう。 ホームステイが終わり一週間もしないうちに ミドルスクールという日本でいう小学校が始ま った。田舎の学校のためか、めずらしそうに皆 僕に近づいてきた。そして、話してきたが何を 言っているのか分からないので無視をするは めになってしまった。しばらくの間このような 状態が続いたため、僕は英語を学ぶため寮 生活を始めることにした。 寮生活先は車で二十分くらいの近い所にあ り、土・日は家に帰ってきたりした。そこでは 主にアジア系の人達が生活をしていた。英語 の授業は毎日あり、レベル別で授業を受けて いたので皆に追いつくことができた。そして、 3ヶ月の寮生活が終わって再びミドルスクー ルに通い始めた。 今度は以外と皆とコミュニケーションをとれ るようになった。寮生活はかなりの効果があ ったようだが、最低限の英語はまだ話すこと ができず、少し違和感を感じていた。ミドルス クールは残りわずかで、アッパースクールと いう日本でいう中学校が始まろうとしていた。 九十九年九月、アッパースクールに進学し た。アッパースクールには、他のミドルスクー ルからも進学してくるので同級生は3倍ほど に増えた。しかし、ミドルスクールと同様、少 し違和感を感じていた。 苦労したのは話すことよりも理解することだ った。特に授業などだ。数学は基本的な単語 と数字で理解するのは容易だったが他の授 業は、イギリス人の生徒に対してのものなの で非常に苦労した。しかし、アッパースクール に進学してから友達も増えコミュニケーション をとるようになり英語が上達したので先生に 質問すれば、分かりやすく教えてくれた。 海外生活ではいろいろ問題があったが、満 喫できたと思う。そして、一生忘れることのな い良い思い出になると思う。 (以上、約930字) |
← 小学校六年生の八月、 ← 一か月 ← 僕に対し、とまどいを感じた様子だった。(※ ここでは事実だけを書き、感想を入れないようにする) ← …という、日本で… ← 話しかけてきたが、何を ← 近い所にあったので、土・日はよく家に帰っていた。 ← …いたので、すぐに皆に ← 今度は意外に簡単に皆と ← 少しもどかしさを感じて ※ 「ミドルスクール…」で改行して、次の段落につないで、文章を次のようにする。 ミドルスクールに二年通った後、九十九年九月にアッパースクールという、日本でいう中学校に進学した。 ※ 字数調整について、「講評」参照。 ← アッパースクールに進学してからは友達も増え、コミュニケーションがとれるようになり、英語も上達した。先生に質問することもできるようになり、授業もよく分かるようになった。 ← 海外生活ではいろいろ苦労もあったが、それを乗り越えると満足も大きかった。イギリスでの生活は一生…… |
一、内容と構成 慣れた話なのでよく書けている。答案には直しの筆がたくさん入っているが、必ずしも間違いを直しているわけではない。よりよい答案に仕上げるために、こうしたほうがよいというアドバイスと思って参考にされたい。点数をつければ80点で、悠々合格の答案となっている。 二、表記と表現 「違和感」というのを、もっとふさわしい言い方に変えてみよう。添削例参照。 ○ 字数について 600〜900字なら、ちょうど真ん中をとって750字を目安にする。内容の充実度を考えると、800字が最もよい。 この答案の場合、削るとすれば、終わりから三段落目の4行目の「しかし、……」から、同じく二段落目の5行目の「……。しかし、」までとする。苦労話はここで打ち切って、明るい話で締めくくるのがよいと考えられることでもある。 |
小学校六年生の八月、僕の家族は父の仕 事の関係でイギリスへ引っ越すことになった。 いったいどのような生活を送るのか少し楽しみ だった。 イギリスに来て一か月もしないうちに僕はホ ームステイすることになった。その頃の僕は あいさつくらいしかできなかった。ホームステ イ先の人たちは何もしゃべらなかった僕に対 し、とまどいを感じた様子だった。 ホームステイが終わり、一週間もしないうち にミドルスクールという、日本でいう小学校が 始まった。田舎の学校のためか、めずらしそう に皆僕に近づいてきた。そして、話しかけてき たが、何を言っているのか分からないので、 無視をするはめになってしまった。しばらくの 間このような状態が続いたため、僕は英語を 学ぶため寮生活を始めることにした。 寮は車で二十分くらいの近い所にあったの で、土・日はよく家に帰っていた。そこでは主 にアジア系の人達が生活していた。英語の 授業は毎日あり、レベル別で授業を受けてい たので、すぐに皆に追いつくことができた。3 か月の寮生活が終わって、再びミドルスクー ルに通い始めた。今度は以外と皆とコミュニ ケーションをとれるようになった。寮生活はか なりの効果があったようだが、最低限の英語 はまだ話すことができず、少しもどかしさを感 じていた。 ミドルスクールに二年通った後、アッパース クールという、日本でいう中学校に進学した。 アッパースクールには、他のミドルスクールか らも進学してくるので、同級生は3倍ほどに増 えた。その分友達も増え、コミュニケーション をさらにとるようになり、自然に英語が上達し た。授業でも質問することもできるようになり、 教えてくれることももよく分かるようになった。 海外生活ではいろいろ苦労もあったが、そ れを乗り越えると満足も大きかった。イギリス での生活は一生忘れることのない良い思い 出になると思う。 (以上、約800字) |
※ 「そこ」の指すものが紛らわしいので、もう少し字数を減らすとしようか。「家」のところを削って、次のようにしてみよう。 ← 寮は車で二十分くらいの近い所にあった。そこでは主にアジア系の人達が生活していた。 |
このあと第11回の「高校生活への抱負」となるわけだが、これは既に2番目の位置に掲載したとおりである。
もう、ほとんど直すところがない。
第11回の答案と前後して、第12回の題は「イギリスと日本」にしたいと言ってきた。
最後を飾るにふさわしい。
題の選び方もうまくなった。大賛成である旨を伝える。
僕は父の仕事の関係で三年半ほど前イギ リスへ引越しをした。そして、時間が経つに つれてイギリスの良いところと悪いところが分 かった。 まず、良いところは古い建物を壊さないとこ ろだと思う。特にロンドンの中心部の建物は 何百年もの歴史をもっている。そして、それら の建物の中に美術館や店がある。また、僕 が住んでいた家は1900年に建てられたも ので、一部は農家が火事になった時に焼け たレンガを使っていると近所の人が言ってい た。 イギリスで古い物は建物だけではない。車 も大昔のものを目にする。また、アンティーク ショップなども目にする。 イギリスには悪いところも意外と多かった。 その多くは現地校での出来事だ。まず、ある 人に中国人に間違えられ、「中国では犬や 猫を食べるだろう」と言われたことだ。また、 ソニーはアフリカのメーカーだと言ってきた人 もいる。現地校の人は日本のことを知らずに 日本はどのような国でどのような人かを決め つけているところがあった。 また、イギリス人はよく人種差別をする。特 に、インド人や中国人に対してだ。だれも僕 には差別をしないが、もし陰でされていたらと 思うと居心地が非常に悪くなる。 イギリスへ来ていちばん強く心に残ったの はこの三つだ。 |
← 車もかなり昔のものを ← と思うと、居心地が |
この答案を送信した後、良平君はイギリスを発った。
試験日は2月20日である。公立高校の推薦入試を受ける。
3月2日に合格の報が電話で入る。
この時の洋平君の第一声は「はじめまして」であった。
思えば、4か月近くに及ぶ答案の送受の間、お父さん、お母さんとは電話で話したことはあったが、
洋平君とはもっぱらファクスでやり取りしていたのだった。
「ああ、そうか、はじめまして。おめでとう」、「ありがとうございます」。
これで、後は旧知の間柄の会話となった。
洋平君には海外に3年半もいたとは思えないほどの国語力がある。
それは上掲の作文に見られるとおりである。英語は英検2級の実力である。
きっと、これから力を伸ばしていってくれることだろう
。カーデザイナーになる夢もある。3年後、7年後が楽しみである。