さくら



光る文章講座

福祉看護介護論作文

—— 大学生・社会人(小論文系) ——

① 「児童福祉と私」
② 「社会福祉士に期待されること」
③ 「福祉のまちづくり」
④ 「精神保健福祉士を目差して」
⑤ 「言語聴覚士を目差して」
⑥ 「看護の心」
⑦ 「高齢社会と医薬品」
⑧ 「介護保険と居宅訪問」
⑨ 「施設におけるプライバシー」
⑩ 「医療ミス」
⑪ 「放射能の子供への影響」
⑫ 「血液型と労働観」

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① 「児童福祉と私」


 Kさんは厚生労働省か東京都特別区で福祉の仕事をしたいと考えている。
申し込みのメールに「卒論で教授に文章能力がないと散々言われました」とある。
二度目の挑戦と察せられる。

初めの答案 添削例・諸注意
 私が児童福祉に興味をもつようになったきっかけは、児童相談所に通う子どもと一緒に時間を過ごすボランティア「メディカルフレンド」である。子ども達が抱える問題は、友達関係を上手く築けなかったり、ちょっとしたことが原因で学校に行けなくなってしまったりという、どの子にも起こり得るものだった。学校が生活の柱となるこの年代、学校での友人づきあいに一喜一憂した私にとって、子ども達の悩みはとても身近なものだった。
 しかし児童相談所の実習で、家庭の問題、すなわち父母の不仲、離婚、経済的困難、暴力、虐待等、幸運にも私は身近に感じることが全くなかった事態に悩み苦しむ子ども達の存在を知った。児童数が減少し、孤児はほとんどいなくなった現在の豊かな日本で、児童養護施設入所を待つ子ども達が大勢いるということに大変衝撃を受けた。そしてその児童養護施設では、私の実習先が定員百六十名、都下最大規模の施設だったこともあるが、十二人の子どもを実質二名の保母で面倒をみていた。いくら職員が努力をしても、施設が目指す「家庭的な雰囲気」とは程遠いものとなる。にも関わらずこの子ども十二人に対して職員二人体制、東京都の子ども六人に対し、職員一人という基準を満たしていた。また、職員と子どもが一軒家やマンションを借りて少人数で暮らす、より家庭的な雰囲気が可能で虐待児ケアに有効とされるグループホームは、一施設に二つまでしか都の規制で作ることができない。これらは東京都の財政難の為だといわれている。もちろん施設に対する東京都の資金援助も削減されている。従って、体罰等もなく、施設側が子どもの生活向上に努めている場合でも、子どもの環境を最善なものにするのはなかなか困難であると思われた。施設を充実させることは大変重要であるが、こうした状況を踏まえて、施設入所に至る子どもの数を一人でも減らすことが、子ども一人一人の幸せへの近道になるといえるのではないだろうか。
 子ども達が幸せに暮らすためには、まず親の安定した生活が前提にあると思われる。そしてそのためには、社会全体の生活の向上が不可欠であると考えている。人が一生懸命に生きているのに幸せになれない、なかなか思うようにいかないという状況には心を動かされ、また怒りを感じる。子ども達や様々な問題を抱えた人々の暮らしを少しでも良くしたいという強い思いがある。この思いを生かせるのは、人々の生活を今より良い方向へ導くお手伝いを役割とするケースワーカーではないか。こうして私は、将来的にはケースワーカーを目標としながら、福祉の分野で働きたいと思うようになった。
            (以上、約1100字)
← ……興味をもつようになったのは、「メンタルフレンド」という児童相談所にボランティアで行って、そこに通う子ども達と過ごしたことがきっかけだった。


※ 「学校が……年代、」を削除。「学校での……私にとって」は、下記の講評参照。

※ 「しかし」の前後の文は意味がひとまとまりになっているので、ここでの改行は不適。その次の文で改行。

← ……を知った。(改行) 現在の日本では児童数が減少し、……いなくなった。だから、児童擁護施設に入所を待つ……



※ 「いくら……ほど遠いものになる」は、後ろに回す。ここでは実情(事実)だけを述べる。(講評参照)









※ 「従って、……思われた」も同様、意見・感想・見解の類いは後ろでまとめる。









← ……不可欠である。私は、人が一生懸命に……感じる。




← ……生かせるのは、ケースワーカーの仕事ではないか。
※ ケースワーカーの役割を簡潔に示す。この段落3行目の「社会全体の生活の向上」と混同しないように。

 答案には赤ペンで添削例や注意事項を書き込む。
それを逐一ここに転記することはできないが、一面かなり赤くなっていた。
表現もさることながら、根本的に構成に難がある。

 添削答案には下記の「講評」を添える。

講  評
一、内容と構成
  内容が未整理のため、児童福祉に対する関心がはっきり
 せず、抱負も説得力に欠ける。
  根本的に、事実と意見を書き分けること。まず、実情と問
 題点を明らかにし、これに検討を検討を加え、行政に提言す
 るなり、自分の抱負を述べるなりするとよい。

  〔構成例〕
  序論 − 第一段落 … 児童相談所での体験、実情
  本論 − 第二段落 … 相談所での活動を通じて知り得
                 た問題点
        第三段落 … 問題点の検討・考察
  結論 − 第四段落 … 児童福祉に対する抱負

二、表記と表現
  一文を短くする。長い修飾語(例えば、第一段落8〜10行
 目の「学校が……した私」、第二段落3〜4行目の「幸運に
 も……事態」等)は文脈を詰まらせているので、二文に分け
 るか、削除するかする)。
  その他、添削例参照。

○ ランク−C、得点ー60

 この講評と添削例を参考に、もう一度書いて送るよう、返信する。
 さて、どんな答案になって返ってくるだろうか。

書き直した答案 添削例・諸注意
 私が児童福祉に興味をもつようになったのは、「メディカルフレンド」という児童相談所にボランティアで行って、そこに通う子どもたちと過ごしたことがきっかけだった。子ども達が抱える問題は、友達関係を上手く築けなかったり、ちょっとしたことが原因で学校に行けなくなってしまったりという、どの子にも起こり得るものだった。私も学校での友人づきあいに一喜一憂したほうだったので、子ども達の悩みはとても身近なものだった。ところが、この相談所での実習を通じて、多くの子供たちは父母の不仲や離婚、経済的困窮、暴力や虐待等の家庭問題のために悩み苦しんでいること、また、このような施設への入所を待つ子ども達が大勢いるということ知った。児童数が減少し、孤児はほとんどいなくなった現在の豊かな日本で、このような子供たちが大勢いることに大きな衝撃を受けた。
 この児童養護施設は、定員160名の、都下最大規模の施設だった。ここでは12人の子どもを実質2名の保母で面倒をみていた。この体制は、子ども6人に対して職員1名という東京都の基準を満たしている。しかし、実際には手が回りかねている様子だった。いくら職員が努力をしても、施設が目指す「家庭的な雰囲気」には程遠い感じだった。このため、一方で、職員と子どもが一軒家やマンションを借りて少人数で暮らす、グループホームという制度があった。これは、より家庭的な雰囲気が可能で、虐待児ケアに有効と考えられている。しかし、都の規制で一施設に二つまでしか作ることができない。東京都の財政難のためだといわれている。したがって、施設側が子どもの生活向上に努めている場合でも、子どもの環境を最善なものにするのはなかなか困難であると思われた。
 施設を充実させることは重要であるが、子ども達が幸せに暮らすために大切なのは、根本的には親の生活の安定である。そのためには、互助の手を差し延べるなどして、社会全体で取り組まなければならない。しかし、その実現を目差す間にも、不幸な子どもは生じているのである。私は、人が一生懸命に生きているのに幸せになれないという状況にはやりきれなさを感じる。財政的に困難であるとはいっても、やはり、一人ひとりの子どもたちを困難な状況から救い出さなければならない。現実に不幸な状態にある子どもたちに接すれば、一人ひとりの子どもに力になってあげたいと思うのだ。
 このような体験から、私はケースワーカーを目標として、福祉の分野で働きたいと思うようになった。
            (以上、約1100字)


Kさんは練習を重ねて国家Ⅱ種をパスし、厚生労働省へと進んだ。

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 「社会福祉士に期待されること


ユニークな事例を紹介しよう。

初めの答案 添削例・諸注意
 高齢者問題が深刻化している現在、従来のような経済面の援助だけの福祉では問題に対処できなくなってきた。そこで、高齢者福祉について、社会福祉士に期待されることを、私の祖母を例にして考えてみたい。
 祖母は関節リューマチから転倒して、大腿骨骨頭を骨折し、ほとんど寝たきりの状態になった。そのため、祖父が仕事を辞め、身の回りの世話をしていた。いつも祖母のまわりには祖父がいて、十分に面倒を見ていた。しかし、祖母は弱々しくなり、いらだつことが多くなっていった。その後、祖母の症状が少し落ち着いたこともあり、離れをカラオケルームに改造し、カラオケの先生や友人を招き、カラオケを楽しむようになると、祖母の表情は生き生きとし、自信が戻ってきた様子だった。
 この状況を思い返すと、最初、私の家族は病気が少しでもよくなってほしいと願い、祖母の体に無理がかからないようにしてきた。祖母は華やかだった頃の自分と、世話を受けることになった自分を比較し、自信を失っていたように思う。世話を受けるだけでは満足しなかったのかもしれない。このことに家族はかなり後になって気づき、祖母の持っている自立できる部分を励まし、育てることにした。祖母は得意なカラオケを通して自信が戻ったと考えられる。
 社会福祉士は、相談相手の興味、関心、今までどのように生きてきて、どのように生きていきたいのかという生活観、価値観を受け止め、共感することが大切である。それに加え、専門知識と的確は判断力で、相手のニーズに合った福祉サービスを総合的にマネジメントしていくことが期待される。そのためには、常に専門職としての自己研磨と幅広い社会体験が要求されると思う。
 社会福祉士は、相手を思いやる心を基本に据え、冷静な判断力と行動力を持つことが期待されているのだ。
 
            (以上、約800字)





← ……リューマチがもとで転倒して


← 世話をするようになった。


← そこで、祖母の症状が少し落ち着いた頃、

← ……友人を招いた。(※ 一文を短く)。

← 家族は……無理がかからないようにと気を配ってきた。ところが、祖母は、


← 世話を受けることに抵抗があったのかもしれない。









※、「福祉サービスを総合的にマネジメント」というのは、どんなことか、具体的に。


← ……もつことが必要ではないかと思う。


講  評
一、内容と構成

 お祖母さんの事例は出色で、社会福祉士の「あり方」もかなりよく描かれている。
 欲を言えば、両者の間にもう少し脈絡をつけて理想の福祉士像を浮かび上がらせるようにしたい。添削例参照。
  
二、表記と表現
 
 一文を短くして、場面を明確にする(第2段落の末尾の文)。
 文と文のつながりをスムーズにする(第3段落のはじめ2文)。
 その他、添削例参照。

○ ランク−B、得点ー80


書き直した答案 添削例・諸注意
 高齢者問題が深刻化している現在、従来のような経済面の援助だけの福祉では問題に対処できなくなってきた。そこで、高齢者福祉について、社会福祉士に期待されることを、私の祖母を例にして考えてみたい。
 祖母は関節リューマチがもとで転倒して、大腿骨骨頭を骨折し、ほとんど寝たきりの状態になった。そのため、祖父が仕事を辞め、身の回りの世話をするようになった。いつも祖母のまわりには祖父がいて、十分に面倒を見ていた。しかし、祖母は弱々しくなり、いらだつことが多くなっていった。そこで、祖母の症状が少し落ち着いた頃、離れをカラオケルームに改造し、カラオケの先生や友人を招いた。カラオケを楽しむようになると、祖母の表情は生き生きとし、自信が戻ってきた様子だった。
 この状況を思い返すと、最初、私の家族は病気が少しでもよくなってほしいという願いから、もっぱら祖母の体に無理がかからないように気を配ってきた。ところが、祖母は華やかだった頃の自分と、世話を受けることになった自分を比較し、自信を失っていたようだった。世話を受けることに気持ちの抵抗があったのかもしれない。このことに家族が気がついたのは、かなり後になってからだった。このような場合、本人の持っている自立できる部分を励まし育てることが大切だと聞いて、試しにカラオケルームを造ってみたのだった。祖母は得意なカラオケを通して自信が戻ったと考えられる。
 社会福祉士は、相談相手の興味や関心のほか、今までどのように生きてきて、どのように生きていきたいのかという生活観、価値観を受け止め、これらに共感することが大切である。それに加え、相手のニーズに合ったサービスを的確に判断し、医療機関や行政とも連携して総合的にマネジメントしていくことが求められる。そのためには、常に専門職としての自己研磨と幅広い社会体験が要求されると思う。
 社会福祉士は、相手を思いやる心を基本に据え、冷静な判断力と行動力を持つことが必要なのだと思う。

            (以上、約800字)








← 祖母のまわりにはいつも祖父がいて、
























← これらをまさに親身になって考えることが大切であろう。それに加え、相手の希望に添ったサービスを……
 (※ 借り物でなく、自分の心からの言葉で表現しよう)。


※ 社会福祉士に要求される事柄ないし資質として、「医療機関や行政と交渉し、助言もする勇気と行動力」を加えておこう。


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 「福祉のまちづくり」


準備中



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 「精神保健福祉士を目差して」


世の中にはいろいろな専門的職業のあることを改めて知る。
2例を紹介しよう。

初めの答案 添削例・諸注意
 私の義兄はアルコール依存症である。これがきっかけで、私は精神保健福祉士になろうと決心した。
 姉夫婦は郵便局の元上司と部下の関係で、約10年前に結婚し、やがて娘が生まれた。
 ところが、義兄は長年の不摂生で体調が悪く、仕事を辞めて自宅療養を始めた。家計は姉に頼り、娘の面倒を見ているのだが、娘が保育園に行っている間、一人でお酒を飲むようになった。そのため、姉と義兄の間で娘の処遇のことで、言い争いが絶えなくなった。娘は家に帰ると、父親がお酒を飲んでいる横で絵をかいている。私はその姿を見て堪えられなくなり、大学の後輩の男性に全てを話した。なぜ彼に打ち明けたかといえば、彼はうつ病の経験があり、適切なアドバイスが得られると思ったからである。
 彼が教えてくれたのは、アルコール依存症というのはアルコールに体を乗っ取られていて、本人が飲まないつもりも意志に反して飲んでしまう病気だから、医師に相談することと本人を決して責めないことだということだった。
 私はアルコール依存症のことは全くわからなかったので、本やインターネットで調べたり、保健所や断酒会の方に話を聞いたりしていたところ、あるホームページで精神保健福祉士という職業のあることを知った。それによると、この福祉士は精神障害者やアルコール依存症の人の社会復帰や生活の手伝いをするのが仕事だということである。私はこれが私の仕事だと思い、様々な専門学校の説明会に通った。その中で、大阪保健福祉専門学校のS先生に日本の精神福祉の状況や読んでおかなければならない本について親切に教えていただいた。
 私はS先生に出会って、本気で精神保健福祉の勉強をしようと思った。今はそのための受験勉強中である。

            (以上、約800字)






※ 「ところが、……」を前の段落につなぐ。





※ 「私はその姿を……」で改行。





※ 「彼が教えて……」を前の段落につなぐ。

← ……しまう病気だということだった。そして、医師に……責めないことをアドバイスしてくれた。







← ……仕事だということであった。

事実経過が実に的確に述べられている。文学的香りさえ漂う。
Aランク、90点。
段落に気をつければよい程度で、書き直す必要はない。

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 「言語聴覚士を目差して」

もう1例。

初めの答案 添削例・諸注意
 手足が自由に動く。耳が聞こえる。言葉を話せる。このような、当たり前にできると思っていたことが、自己や病気で急にできなくなることがある。
 昨年、祖母がクモ膜下出血で入院し、右半身麻痺、言語障害の症状が出た。家族の戸惑いも大きいが、一番ショックを受けたのはやはり祖母本人であろう。自分の体が思うように動いてくれないもどかしさにイライラしたり涙ぐんだり、情緒が不安定な時期もあった。だが、リハビリや周りの人々の支えと励ましのお陰で、少しずつ手足が動くようになり、精神的にも落ち着いてきた。特に専門知識やじゅうぶんな経験をもった先生の励ましは、本人はもとより、患者を見守ることしかできない家族にとっても、非常に心強い存在だった。
 担当の先生が「こちらがいくら頑張っても、本人がやる気になってくれないとね」と厳しく言われたことがあった。だが、常に患者の状態に注意を払い、声をかけ、やる気を起こさせようという情熱がひしひしと伝わってきた。この情熱が患者との信頼関係を築き、患者の心に変化をもたらす。自分は必ずよくなるという希望、周りに支えてくれる人がいるという安心感である。リハビリというのは身体機能を回復させると同時に、心のリハビリもしていると、そんな気がした。リハビリの奥深さを感じ興味が沸いた。
 以前から人の役に立ち、自分しかできない専門的な仕事がしたいと考えていたが、まさにそれがこのリハビリという分野なのではないかと思った。そして、いろいろ調べていくうちに、言葉のリハビリ=言語聴覚士にたどりついた。大学時代、英語学を専攻しており、子供の言語発達の中で、言語障害について学んだことがあった。その頃から言語障害に関心があり、それが現在の関心事に結びついたのだ。
 この仕事はせっかちではできない。思いやりの心を持ち、気長に患者と向かい合っていこうという姿勢で臨まねばならない。日々進歩する医療の中で、常にアンテナを張りめぐらせて、この分野を自分の手で開拓していく意気込みと向上心をもって頑張りたい。このような形で福祉に関わり、社会に貢献しようと思う。

            (以上、約800字)
※ この段落は不要。次の段落の内容から始める。



← 家族の戸惑いも大きかったが、















← ……熱意がひしひしと……。この熱意が……もたらすのだろう。
※ 「自分は……」の一文を削除。前後の文とつながりがないため。入れるとしても、主語・述語のある文にすること。
← 心のケアも
← ……奥深さを感じ、興味が湧いた。





← 子供の言語発達の授業で



← この仕事には忍耐が要るだろう。
← ……向かい合っていかなければならない。私はこの姿勢を心がけ、この分野を自分で開拓していくつもりで、向上心をもって福祉の世界に入り、社会に貢献していきたいと思う。


講  評
一、内容と構成

 動機と、そのもとになる事例と体験が具体的にとてもよく書かれている。
 ただし、抱負に力みが見られ、まとまりを欠く。ここをすっきりさせて、方向性を定めたい。

二、表記と表現

 抱負の述べ方のほか、細かな表現にも注意したい。
      情緒 → 気持ち
      情熱 → 熱意
 その他、添削例参照。

三、評点

 ランク:B 得点:75


書き直した答案 添削例・諸注意
 昨年、祖母がクモ膜下出血で入院し、右半身麻痺、言語障害の症状が出た。家族の戸惑いも大きかったが、一番ショックを受けたのは祖母本人であろう。自分の体が思うように動いてくれないもどかしさにイライラしたり涙ぐんだりして、気持ちが不安定な時期もあった。だが、リハビリと周りの人々の支えや励ましのお陰で、少しずつ手足が動くようになり、精神的にも落ち着いてきた。特に、専門知識やじゅうぶんな経験をもった先生の励ましは、本人はもとより、祖母を見守ることしかできない家族にとっても、非常に心強いものだった。
 担当の先生が「こちらがいくら頑張っても、本人がやる気になってくれないとね」と厳しく、突き放したように言ったことがあった。しかし、先生は常に患者の状態に注意を払い、声をかけていた。やる気を起こさせようという熱意がひしひしと伝わってきた。この熱意が患者との信頼関係を築き、患者の心に変化をもたらすのだろう。祖母に笑顔も見られるようになった。リハビリというのは身体機能を回復させると同時に、心のケアもしていると、そんな気がした。リハビリの奥深さを感じ、興味が沸いた。
 以前から人の役に立つ専門的な仕事がしたいと考えていたが、それがまさにこのリハビリという分野なのではないかと思った。そして、いろいろ調べていくうちに、言葉のリハビリ=言語聴覚士にたどりついた。大学時代、英語学を専攻して、子供の言語発達の授業で、言語障害について学んだことがあった。その頃から言語障害に関心があttが、それが現在の関心事に結びついたのだ。
 この仕事には忍耐が要るだろう。。思いやりの心を持ち、気長に患者と向かい合う姿勢で臨まねばならない。私はこの姿勢を心がけ、この分野を自分の手で開拓するつもりで、向上心をもって福祉の世界に入り、社会に貢献していきたいと思う。

            (以上、約800字)














◎ 「……つきはなしたような……。しかし、先生は……」。このくらい言葉を補っておくと、状況が分かりやすくなるね。


















抱負について、謙虚な語り口が説得力をもつとも言える。

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 「看護の心」

筆者はいったん退職した後、20歳代半ばで再び病院勤務を志している。

初めの答案 添削例・諸注意
 脳出血のため、意識がなく、四肢も動かせない状態の患者さんを看護したとき、「あなたは患者さんに声かけをしない」と、先輩に注意されたことがある。私はハッとした。そして、介助や技術的なことばかりに集中するあまり、声かけを怠ってしまう自分に気がついた。その後は、意識の薄い患者さんも、クリアな患者さんも、笑顔でいろいろな言葉かけをするように努めた。「○○さん、おはようございます」、「体を拭いてもよろしいですか」、「今日はすごくいい天気ですよ」、「点滴をしますね」等、心を込めて、一生懸命話しかけながら介助に努めた。患者さんの脳にひびくように……、心にひびくように……。
 「何にも分からんでも、話すといいんですね」ふと横を見ると、患者さんの奥さんがいた。つい最近まで元気だった夫が急に倒れてしまい、しかも、意識が戻らないという大きな絶望感の中で出た言葉だった。私は「そうですよ。心を込めてお声をかけると、時々目が開くんですよ」と言った。奥さんは「声をかけてもかけなくても同じかと思ったけんど、そうじゃないだね」と言った。それからは、その病室ではよく、奥さんの呼びかけが聞こえるようになった。そして、「今日は目が開いた」、「今日はこちらを見て笑った」と、うれしそうに報告に来てくれるようになった。私はとてもうれしかった。
 このような喜びは、人のお世話をする立場でなければ味わえないものではないだろうか。私は確かに、技術や介護に熱中するあまり、患者さんへの心のこもったコミュニケーションを怠っていた。しかし、先輩の教えから、自分の事を悔い改めることで、患者さんにも奥さんにも心が通じ合える結果となった。
 看護を通して多くのことを感じ、考え、悩む。そして、「生きること」や「生命の尊さ」について教えられている自分に気がつくのである。

            (以上、約800字)

← ……看護したとき、先輩に「あなたは……」と注意され



← 意識の薄い患者さんにも、クリアな患者さんにも





← 心にひびくように……と念じながら。














※ 結論部にうまくつながるように、この段落の内容を整理してみよう。
← 私は先輩の教えによって、それまでの自分の態度を悔い改め、その結果、患者さんとも家族の方とも心が通じ合えるようになった。そのとき最も心がけたのは、「心から」声かけをすることである。
※ この体験を受けて、課題に合わせて締めくくろう。

体験が素晴らしい。
注記したように、これを受けて、終わりから2段落目に流れをつけたい。

書き直した答案 添削例・諸注意
 脳出血のため、意識がなく、四肢も動かせない状態の患者さんを看護したとき、私は先輩に「あなたは患者さんに声かけをしない」と注意された。私はハッとした。そして、介助や技術的なことばかりに集中するあまり、声かけを怠ってしまう自分に気がついた。その後は、意識の薄い患者さんにも、クリアな患者さんにも、笑顔でいろいろな言葉かけをするように努めた。「○○さん、おはようございます」、「体を拭いてもよろしいですか」、「今日はすごくいい天気ですよ」、「点滴をしますね」等、心を込めて一生懸命話しかけながら介助に努めた。患者さんの脳にひびくように……、心にひびくように……と念じながら。
 「何にも分からんでも、話すといいんですね」。ふと横を見ると、患者さんの奥さんがいた。つい最近まで元気だった夫が急に倒れてしまい、しかも、意識が戻らないという大きな絶望感の中で出た言葉だった。私は「そうですよ。心を込めてお声をかけると、時々目が開くんですよ」と言った。奥さんは「声をかけてもかけなくても同じかと思ったけんど、そうじゃないだね」と言った。それからは、その病室ではよく、奥さんの呼びかけが聞こえるようになった。そして、「今日は目が開いた」、「今日はこちらを見て笑った」と、うれしそうに報告に来てくれるようになった。私はとてもうれしかった。
 このような喜びは、人のお世話をする立場でなければ味わえないものではないだろうか。私は先輩の教えによって、それまでの自分の態度を悔い改め、その結果、患者さんとも家族の方とも心が通じ合えるようになった。そのとき最も心がけたのは、「心から」声かけをすることである。
 看護では多くのことを感じ、考え、悩む。ただ、どんな場合でも大切なのは、患者さんには真心を捧げることである。そうすることによって、私は「生命の尊さ」について学ぶことができたような気もする。

            (以上、約800字)






















◎ もしかして、このご家族は山梨の方かな。余談だが。
















いい締めくくりになった。「真心を捧げる」という言葉にも嫌味がない。

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 「高齢社会と医薬品」

これは「薬漬け」が大きな問題になっていたころに書かれたものであるが、
この問題は今もなお解決されているとは言い難い。

初めの答案 添削例・諸注意
 近年、急速に進む高齢化が問題となっていますが、これは医療の世界でもとても重大な事として問題視されています。
 その理由の一つとして、高齢者にはいろいろな病気を併発している人が多く、そのため、薬の数も症状と一緒に多くなり、薬の自己管理ができないことが挙げられます。この点で、高齢者に対しては服薬指導が必要です。ここではその服薬指導について考えてみたいと思います。
 まず、ゆっくり、はっきり話すことです。高齢者の中には耳が聞こえづらい人や、説明を理解するのに時間がかかる人もいるので、そういうことに心がけながら話すことが必要です。そして、高齢者のプライドを十分に尊重しつつ説明することです。それが薬の適正使用につながると思います。
 次に、患者さんが他の病院と並行して通院していたら、知らずに薬効や成分が同じ薬を重複して服用している場合があるかもしれません。薬効や……ことがあるかもしれません。また、高齢者では多剤併用している人が多く、どれが何の薬で何のために服用しているを十分理解せずに飲んでいる場合もあります。前者の場合は、お薬手帳が服薬指導に大きな役割を果たすと思います。患者さんからの情報だけではなく、その手帳を見ることで患者さんの服用している薬が一目で分かり、併用禁忌や重複などに対して注意を払うことができます。後者の多剤併用している人の場合は、薬の区別ができるように、写真付き説明書がよいと思います。薬の写真を説明書に載せることで、その薬の名前や色の特徴を覚えることができます。また、一度説明したことを家に帰って反復学習ができ、より効率よく覚えられ、自己管理の向上につながると思います。
 高齢者には抑うつ症の人や内向的な人が多いため、コミュニケーションを若年者よりは比較的とりにくい面があります。それを補うためにも、お薬手帳や写真付き説明書を使って分かりやすい言葉で説明することが、有効かつ安全な薬物療法へとつながっていくものと思います。

            (以上、約900字)

← 医療の世界では特に大きな問題として重大視されています。
※ この段落(第2段落)の内容は前の段落につなぐ。
← 薬の数も症状の数とともに多くなり、



← 指導の基本は、まず、ゆっくり……

← そういうことに配慮しながら


← ……説明する必要もあります。
← 通院している場合、薬効や……ことがあるかもしれません。















← 説明されたことを家に帰って……覚えられるため、自己管理の……


← 若年者よりコミュニケーションをとりにくい面が……

筆者は現役の薬剤師である。
さすがに、内容には説得力がある。

書き直した答案 添削例・諸注意
  近年、急速に進む高齢化が問題となっていますが、これは医療の世界では特に大きな問題として重大視されています。その一つとして、高齢者にはいろいろな病気を併発している人が多く、そのため、薬の数も症状の数とともに多くなり、薬の自己管理ができないことが挙げられます。この点で、高齢者に対しては服薬指導が必要です。ここではその服薬指導について考えてみたいと思います。
 指導の基本は、まず、ゆっくり、はっきり話すことです。高齢者の中には耳が聞こえづらい人や、説明を理解するのに時間がかかる人もいるので、そういうことに配慮しながら話すことが必要です。そして、高齢者のプライドを十分に尊重しつつ説明する必要もあります。それが薬の適正使用につながると思います。
 次に、患者さんが他の病院と並行して通院している場合、薬効や成分が同じ薬を重複して服用していることがあるかもしれません。また、高齢者には多剤併用している人が多く、どれが何の薬で何のために服用しているを十分理解せずに飲んでいる場合もあります。前者の場合は、お薬手帳が服薬指導に大きな役割を果たすと思います。患者さんからの情報だけではなく、その手帳を見ることで患者さんの服用している薬が一目で分かり、併用禁忌や重複などに対して注意を払うことができます。後者の多剤併用している人の場合は、薬の区別ができるように、写真付き説明書がよいと思います。薬の写真を説明書に載せることで、その薬の名前や色の特徴を覚えることができます。また、説明されたことを家に帰って反復学習ができ、効率よく覚えられるため、自己管理の向上につながると思います。
 高齢者には抑うつ症の人や内向的な人が多いため、若年者よりコミュニケーションをとりにくい面があります。それを補うためにも、お薬手帳や写真付き説明書を使って分かりやすい言葉で説明することが、有効かつ安全な薬物療法へとつながっていくものと思います。

            (以上、約900字)

次の答案は、同じ筆者のものである。

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 「介護保険と居宅訪問」


筆者は薬剤師の資格を取ったが、
薬局という現場に出てみて社会経験の不足を痛感し、
「薬」の世界について勉強し直している。

初めの答案 添削例・諸注意
 平成12年の4月から介護保険制度が発足し、その中に居宅訪問薬剤管理指導という項目が設けられました。これは薬剤師が直接患者の自宅へ行き、薬の服薬指導をすることです。従来、入院でしか行うことのできなかった医療行為が、技術の進歩により在宅で行うことが可能になり、薬剤師も医療従事者として医療行為を行うことができるようになりました。
 これから多くの患者が在宅で療法を受ける機会が増えてくると予想されますが、その在宅医療の中で薬剤師に求められることは、患者の服薬指導や薬の管理指導、それに、在宅高カロリー輸液の無菌昆注操作などです。薬の管理指導では、錠剤を粉砕した粉薬はとても湿気やすいので、缶に入れて保存すればよいことや、多剤併用されている人なら、服用方法が薬によってばらばらの可能性があるので、朝・昼・夕などに一包化あげることができます。服薬指導では、在宅患者の多くは高齢者が占めているため、薬の説明は1回では十分理解されない可能性が高いので、説明回数を重ねる必要があり、さらに、ゆっくりはっきり話すことが大切です。それに、総服用量がとても多く薬だけでお腹いっぱいになるという人もいるので、最小限(薬の種類・量)の薬物で最大の効果を上げる処方となるように考慮していくことが重要です。
 在宅療法は患者が個々の生活をすることができるので、メリットとして、目標を立て在宅で医療を受けることで、正しい生活習慣を身に付けられることが挙げられます。さらに、家族と共に暮らすことで、苦しみを共有でき、孤独感を和らげることにより、精神的に安定した生活が送れることが期待されます。
 我々薬剤師も他の医療関係者と、お互いに情報を提供し合いながら連携を確立し、情報交換のしやすい環境を整えられるよう注意を払うようにしなければなりません。そして、その患者の薬物療法が有効で、かつ安全に行われるよう、一人一人の生活と療養状況を理解し、努めていかなければならないと思います。

            (以上、約800字)



← ……へ行き、服薬指導を
← 病院や医院でしか




※ この段落は内容が多く、読み取りにくいので、「薬の管理指導では、」のところと、次の「服薬指導では、」のところでそれぞれ改行する。



← 多剤併用している場合は、……必要があります。











※ メリットを明確に。
  最大のものを一つに絞るとよい。












※ 介護保険制度に触れて締めくくる。

これは、ある病院の採用試験の課題である。

書き直した答案 添削例・諸注意
 平成12年の4月から介護保険制度が発足し、その中に居宅訪問薬剤管理指導という項目が設けられました。これは、薬剤師が直接患者の自宅へ行き、薬の服薬指導をすることです。従来、病院や医院の中でしか行うことのできなかった医療行為が、技術の進歩により在宅で行うことが可能になり、薬剤師も医療従事者として医療行為を行うことができるようになりました。
 これから多くの患者が在宅で指導を受ける機会が増えてくると予想されますが、その在宅医療の中で薬剤師に求められることは、患者の服薬指導や薬の管理指導のほか、高カロリー輸液の無菌昆注操作などです。
 薬の管理指導では、錠剤を粉砕した粉薬はとても湿気やすいので、缶に入れて保存すればよいとアドバイスすることや、多剤併用している場合は、服用方法が薬によってちぐはぐの可能性があるので、多種の薬を朝・昼・夕に分けて一包化あげることなどができます。
 服薬指導では、在宅患者の多くは高齢者であるため、ゆっくりはっきり話すことが大切で、また、説明は1回きりではなく、回数を重ねる必要があります。それに、総服用量が多くて薬だけでお腹いっぱいになるという人もいるので、最小限の薬で最大の効果を上げる処方を考慮していく必要もあります。
 在宅療法のメリットは、患者が自分のペース生活できること、また、家族と共に暮らすことで、孤独感を和らげることができ、精神的に安定した生活が送れることです。そのような環境の中へ私たちが関わっていくわけですが、患者一人には薬剤師ばかりでなく、医師、看護師、介護士など、複数の人が関わっています。そのため、関係者はお互いに情報交換をして最良の療法を見出していく必要があります。
 介護保険制度が有効に作用するためにも、私は患者一人一人の状況をしっかり把握して、、薬の指導に当たりたいと思います。

            (以上、約800字)
            



















← ……ことなどが考えられます。









← 孤独感に陥ることなく、精神的に






こういう試験を通じて、スタッフの責任感も高まるのだろう。

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⑨ 「施設におけるプライバシー」


女子学生によく見られる表現の例を紹介しよう。

初めの答案 添削例・諸注意
 現在、わが国はどの国も経験したことのない速度で高齢化が進み、2025年には4人に1人が65歳以上のお年寄りになると見込まれている。それに伴い、老人介護の問題がますます深刻化している。ここでは、特別養護老人ホームにおけるプライバシーの保護について考えていきたい。
 確かに、高齢化社会において、公的介護保険法の導入などから、高齢者の人権尊重が叫ばれている。しかし、施設に入居した老人において、権利としてのプライバシーがどれほど守られているだろうか。
 特別養護老人ホーム入居者の生活はどのようなものであろうか。近年の特別老人ホームは、施設の概観は明るくデザインされ、トイレ等の設備は、身体機能の低下に十分配慮されている。また、年中行事やクラブ活動が用意され、生活に刺激と張りを与えている。
 このような「ケア」生活の中で、プライバシーが侵害されるとはどのような様相なのか。第一に、「空間・時間」とプライバシーという面から見てみると、施設は老人にとって1日の大半を過ごす場である。特に、寝たきりになりベット臥床を余儀なくされた老人の場合、その色合いは強い。しかし、その解決策を短絡的に個室化と結びつけてしまうことには注意しなければならない。個室化がプライバシーの一面しか保護しない可能性とコミュニケーションという位相に対するまなざしの欠如という観点からである。第二には、「はずかしさ」とプライバシーという面から見てみると、老人が清拭や排泄の介助を受けるとき、介助者はその恥ずかしさを減らすためにスクリーンをし(視覚的)、時にはラジオなどを用いて排尿の音を消したり(聴覚的)、排泄が終わると窓を開ける(嗅覚的)などの配慮をする。このように、その」老人の秘なる部分をニードに応じて隠すというプライバシーの尊重は、恥ずかしさという苦痛への配慮である。
 このように、施設におけるプライバシーの保護は、個人の秘密に敏感になることを基盤とし、保護してほしい心持ちと一人になりたい心持ちがあることに配慮しなければならない。

            (以上、約900字)







←※ 「確かに、」という表現について、講評参照。
← 施設に入居した老人のプライバシーが……

※ 段落の最初の文を削除する。前の段落の末尾で疑問を呈しているので、疑問を重ねないように。




※ この段落の冒頭の一文についても同じ。先行する疑問に対する回答がないまま疑問を重ねては論理を欠くことになる。もし入れるのであれば、「このような」の前に「ところで、」を補う。




←※ 「位相に対するまなざしの欠如」とは、どういうことなのか。講評参照。










← 個人の秘密に細やかな配慮をすることを……


講  評
一、 内容と構成

 内容(題材)はよいが、疑問を重ねて解答を示さないまま話を先へ進めているために、論理性に欠け、考えが伝わりにくい。
 次のように構成し直してみよう。

 第1段落 − (序論) 論述の意図(ここは元のままでよい)
 第2段落 − (本論・前段) 特別養護老人ホームの現状
 第3段落 − (本論・後段) 現状の問題点の検討
 第4段落 − (結論) 改善案の提言

二、 表記と表現

 次の2点について、特に注意したい。
 「確かに、」;前に述べた内容を受けて確認ないし強調するときに使う。
 「位相に対するまなざしの欠如」;文学的表現も、時には許されようが、意味不明では使う意味が無い。

三、評点

 ランク:B 得点:70


書き直した答案 添削例・諸注意
 現在、わが国ではどの国も経験したことのない速度で高齢化が進み、2025年には4人に1人が65歳以上のお年寄りになると予測されている。それに伴い、老人介護の問題がますます深刻化している。ここでは、特別養護老人ホームにおけるプライバシーの保護について考えていきたい。
 近年の特別養護老人ホームは、施設の概観は明るくデザインされ、設備等も身体機能の低下に十分配慮されている。しかし、プライバシー保護という観点から見ると、多くの問題があるようである。個室のある施設は非常に少なく、ほとんどが4人くらいのベット室である。特に、身体に障害を持ち、寝たきりの状態になった老人にとって、ベッドは生活の場そのものである。ベッドに寝た状態で食事をし、排泄をし、身体を拭いてもらうことになるが、ここにいろいろな問題がある。
 第一の問題は、個人の秘密の保護という点である。誰にも秘密にしたいことがあるだろうが、介護者の質問には、同室の人には聞かれたくないことまで答えなければならないこともあるだろう。施設においては、心身の秘密がオープンになりやすい。第二の問題は、「はずかしさ」という点である。老人が清拭や排泄の介助を受けるとき、その恥ずかしさを少なくする配慮が必要であるが、カーテンによる仕切りや消臭装置の設置などの配慮がなされている所は少ない。
 施設においては、個人の秘密保持について細心の注意を払わなければならない。つまり、それぞれの人のもつ恥ずかしさという苦痛について、どのようなときに恥ずかしく思うのか、それはどのように表現されるのか、どのような配慮が望ましいのか考慮する必要がある。最も望まれるのは、個室を多く用意し、入居者に個室にするか、相部屋にするかを選択する自由を与えることであると思う。
 
            (以上、約800字)












← 4人単位の相部屋である。





















← それはどのような表情や仕草に現れるのかを観察し、どのような処置が望ましいのかを考慮する必要がある。


「角のとれた文章」になった。
題材からして、かなりの力量の持ち主と見受けられるが、
このように滑らかな語り口になると、主張も通りやすくなろう。


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 「医療ミス」


これは大病院の採用試験で出された課題である。

初めの答案 添削例・諸注意
 i医療ミスに関するニュースが後を絶たないが、これは、最近になってミスが多発するようになったためではない。これまでは表沙汰にならなかっただけというのが、多くの医療関係者の見方である。
 Y大医学部附属病院の患者取り違え事件、東京都H病院で起きた点滴ミス死亡事件、その他、呼吸器の中に誤って消毒液を入れてしまい死亡してしまう事件や、体内にガーゼを残して手術を終えてしまう事件など、数多くの医療ミスが起きてしまっているのが現状である。
 3年間看護師として勤めていた病院で、私は新人の頃、患者さんの血液を少なめに採血してしまったことがある。検査用のスピッツに順に血液を入れていくと、明らかに2本分足りなかった。患者さんに痛い思いを二度もさせて、大変申し訳ないことをしてしまった。
 このように、医療従事者はふだんからヒヤッとしたり、ハッとさせられる、思いもかけないニアミスを経験することが多い。このような事故の原因は、知識や経験の不足、患者さんとのコミュニケーション不足が原因そのものであるが、常に医療ミスや事故が起こるかもしれないという気持ちを肝に銘じていなければいけないのではと考える。そして、ヒヤッとしたり、ハッとしたりしたことは、ほんの少しのミスでも、危険予知の情報として、スタッフに報告し、その情報を共有することで、ミスを防いでいけるのではないかと考える。
 看護師もロボットではなく人間であり、人間はミスをしてしまうもの、ミスからまなぶこともある。しかし、他の世界と違うところは、何よりも人の命にかかわっているということである。そのことを常に念頭に置きながら、看護に従事していかなければならない。

            (以上、約700字)








← ……を入れてしまって死亡させた事件、
← 数多くの医療ミスが報道されている。








← ……ハッとしたりするような、


← ……不足などが原因となっている。このため、常に……肝に銘じておかなければならない。



← スタッフに報告しておけば、


← 人間はミスをするものだという前提に立つ必要がある。そうしてこそ、予測されるミスに対する予防策も講じられる。しかし、医療の世界が他の世界と異なるところは……
← 医療に従事して

一般的事例のほかに、自分の失敗を挙げていることが
内容を説得力のあるものにしている。
第4段落では、事例の部分と対処法についての考えとを分けておきたい。
結論部では、もう一歩突っ込んだ考察が望まれる(添削例参照)。

書き直した答案 添削例・諸注意
 i医療ミスに関するニュースが後を絶たないが、これは、最近になってミスが多発するようになったためではない。これまでは表沙汰にならなかっただけというのが、多くの医療関係者の見方である。
 Y大医学部附属病院の患者取り違え事件、東京都H病院で起きた点滴ミス死亡事件、その他、呼吸器の中に誤って消毒液を入れてしまって死亡させた事件や、体内にガーゼを残して手術を終えてしまった事件など、数多くの医療ミスが報道されている。
 3年間看護師として勤めていた病院で、私は新人の頃、患者さんの血液を少なめに採血してしまったことがある。検査用のスピッツに順に血液を入れていくと、明らかに2本分足りなかった。患者さんに痛い思いを二度もさせて、大変申し訳ないことをしてしまった。
 このように、医療従事者はふだんからヒヤッとしたり、ハッとしたり、思いもかけないニアミスを経験することが多い。このような事故の原因は、知識や経験の不足、患者さんとのコミュニケーション不足などが原因となっている。このため、医療ミスや事故が起こるかもしれないという気持ちを、常に肝に銘じていなければならない。そして、ヒヤッとしたり、ハッとしたりした場合、ほんの小さなことでも、危険の兆候として、スタッフに報告しておけば、その情報を共有することで、ミスを防いでいけるものと考えられる。
 看護師もロボットではなく人間であり、人間はミスをするものだという前提に立つ必要がある。そうしてこそ、予測されるミスに対する予防策も講じられる。しかし、医療の世界が他の世界と異なるところは、何よりも人の命にかかわっているということである。そのことを常に念頭に置きながら、看護に従事したい。

            (以上、約800字)
























← ……かもしれないということを、常に




← 医師も看護師もロボットではなく





← 私はそのことを常に念頭に置いて、


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 「放射能の子供への影響」


これは東日本大震災の半年後に書かれたものである。

初めの答案 添削例・諸注意
 東日本大震災で生じた、福島第一原子力発電所の事故による放射能の影響は、現在も依然として大きな問題となっている。中でも、特に、体が小さく、抵抗力の弱い子供への影響が心配されている。原子炉の中には放射能を出すヨウ素131という物質が存在しているが、このヨウ素を甲状腺に貯めこんでしまうと、甲状腺ガンの発症率が高まって、子供の成長を妨げる恐れがあるということだ。
 福島県では10月9日から、18歳以下の全ての子供、36万人に対して甲状腺の超音波検査をするという発表があった。生涯に渡って実施されるという。これは、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故の際に極めて大量のヨウ素131が放出され、それを体内に取り込んでしまった小児の甲状腺ガンの発症率が高かったことを参考に、実施が決まったものである。
 専門家によると、体への影響は放射線の「量」によって決まるということである。チェルノブイリの事故では広島の原爆数百個分に相当する極めて大量の放射性物質が放出された。一方で、福島の原発事故では、もともと低く設定されている基準値を全員が大幅に下回った。このことから、今回の事故で子供の甲状腺ガンが増加する可能性は低いという。
 では、なぜこのような処置をとったのだろうか。それは、様々な情報が耳に入ることで、放射線に対する極度の不安があるからだろうと思われる。したがって、検査を実施することによって、少なくとも現状での不安は解消されるだろう。万一、危険の兆候が見られた場合には早期発見につながるだろう。
 医療関係者としてすべきことは、まず、自分自身が正確な知識を備え、それを伝えることによって、不安を低減させることである。次に、予防策として子供たちには「野菜は必ず洗ってから食べる」、「外ではマスクをする」など、基本的なことを教えることである。さらに、長年に渡って検査を継続して行い、もしも発症が見つかったときには早期に治療をができる体制を整えておく必要がある。
 いずれにしても、人々を放射能の恐怖から守るには、医師をはじめ、医療関係者が連携して有事に備える必要があると思う。

            (以上、約950字)

















← 広島に投下された原爆数百個分に……
← 福島の超音波検査では


筆者は、看護師を目指す大学生である。
これだけの心構えと認識があれば、有能な看護師になることだろう。


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⑫ 「血液型と労働観」

公務員試験でもよく「天声人語」(朝日新聞)から出題される。
ここでは、「次の文章を読んで、あなたの考えを述べなさい」といった場合の
書き方例を紹介しよう。
(原文省略。答案での大意をもって、これに代える)。

初めの答案 添削例・諸注意
 ある大学教授は労働の型としてABCの3つの型があると言っている。A型は収入を得るための労働、B型は収入をあてにしない労働、C型はAもBもしたくないものといった具合だ。
 オーストラリア人はB型重視だ。B型人間は何でも自分で手を入れて改良してしまう。機器や老後に強いのもB型だ。ゆえにオーストラリア人は数字の上では、それほど豊かではないが、皆実に豊かな暮らしをしている。
 一方、今の日本人はA型に偏りすぎているのではまいか。それは、経済指標を押し上げはするが、暮らしの豊かさに必ずしも直結しない。
 私の知り合いに趣味がゴミ収集というオーストラリア人がいる。大型ゴミの日を狙って前日からゴミ集積所をはしごすると言っていた。家にあるほとんどが拾ってきた物らしい。本棚などはやすりをかけただけで新品同様になると言っていた。家電製品なども自分で修理してしまうからすごい。しかし、もっと驚いたのは、それを自慢げに話していることだった。私も大型ゴミに出されている物を見てまだ使えそうなのにもったいないと思うことが何度かあった。それを持ち帰る勇気はない。人が捨てた物を拾うのは恥ずかしいし持って帰ったところで修理ができないからだ。しかし、オーストラリアでは、まだ使える物を平気で捨てるほうが恥ずべきことなのだ。
 日本ではインテリアにしてもファッションにしても、お金をかけるのがよいという傾向が強い。その点からも今の日本人が収入を得るための労働に力が入ってしまうのが分かる。生活するためにはある程度のお金は必要だが、労働=お金ではあまりにもさみしい。たとえ、お金がたくさんあってもそれで心が満たされるとは限らない。労働の結果としてお金という形ある見返りを期待し、形はないかもしれないがもっと大切な何かを得ていることに気づかない人が多いように思う。今の日本人に必要なのは、心の豊かさだ。A型とB型のバランスをうまくとり、経済面、精神面ともに満たされた生活を目指したいものだ。

            (以上、約900字)
※ 記事の内容と自分の考えを明確に区別する。
 そのため、最初に「この記事の筆者は次のように述べている」という意味のことを示しておく。
 また、記事の内容はひとまとめにする(一段落にまとめる)。


← ……しているといえる。











← ……自分で修理してしまうという。驚いたのは……

※ 何を見たのか。一例を入れるとよい。

← ……できないからだ。それはともかく、オーストラリアでは……恥ずべきことらしい。(※ 聞いた話としてまとめる)。



※ 「労働=お金」が必ずしも日本人一般の労働観・金銭観とは言えないので、これを言うなら、どこかに「私たち日本人は……」と補っておこう。そうすれば、自分を含めた反省の意味で説得力も出る。


※ 「今の日本人に……」で改行し、結論とする。

ともすれば、紋切り型の日本人評が出がちであるが、
それがマスコミからの借り物である場合には
「私たち日本人は……」と補っておけば、耳を傾けてももらえよう。

書き直した答案 添削例・諸注意
 この記事の筆者は次のように述べている。
 ある大学教授は労働の型として、A・B・Cの3つの型があると言っている。A型は収入を得るための労働、B型は収入をあてにしない労働、C型はAもBもしたくないものといった具合だ。オーストラリア人はB型重視だ。B型人間は何でも自分で手を入れて改良してしまう。機器や老後に強いのもB型だ。ゆえにオーストラリア人は数字の上では、それほど豊かではないが、皆実に豊かな暮らしをしている。一方、今の日本人はA型に偏りすぎているのではまいか。それは、経済指標を押し上げはするが、暮らしの豊かさに必ずしも直結しない。

 たまたま、私の知り合いに趣味がゴミ収集というオーストラリア人がいる。大型ゴミの日を狙って前日からゴミ集積所をはしごすると言っていた。家にある物はほとんどが拾ってきた物らしい。本棚などはやすりをかけただけで新品同様になると言っていた。家電製品なども自分で修理してしまうという。驚いたのは、それを自慢げに話していることだった。私も、まだ使えそうなタンスや自転車が大型ゴミで出されているのを見て、もったいないと思うことが何度かあった。しかし、それを持ち帰る勇気はない。人が捨てた物を拾うのは恥ずかしいし、持って帰ったところで修理ができるわけではないからだ。それはともかく、オーストラリアでは、まだ使える物を平気で捨てるほうが恥ずべきことらしい。
 日本ではインテリアにしてもファッションにしても、大量消費の傾向が強い。そのために、日本人は収入を得るために労働に力が入ってしまうのかもしれない。生活するためにはある程度のお金は必要だが、労働=お金ではあまりにもさみしい。たとえ、お金がたくさんあってもそれで心が満たされるとは限らない。私たち日本人は労働の対価としてお金という見返りを期待するが、もっと大切な何かに気づかない人が多いように思う。
 私たち日本人に必要なのは心の豊かさだ。A型とB型のバランスをうまくとり、経済面、精神面ともに満たされた生活を目指したいものだ。

            (以上、約900字)














◎ 記事の内容と自分の考えを明確に区別するためには、1行空けるのも一つの方法である。























◎ これで、日本人観にも、いくらか客観性が出てきた。


◎ このように、締めくくりは簡潔に。


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