金色のイチョウ



光る文章講座


公務員試験の小論文

—— 国家Ⅱ種・地方上級 ——


○ 青字の項目に例文が入っています。→
① 「私が知事になったら」
② 「顧客主義」
③ 「観光と行政」
④ 「文化立県の推進」
⑤ 「行政と民間の連携」
⑥ 「地域間格差」
⑦ 「公務員制度改革」
⑧ 「地方分権と道州制」
   ……………………
⑨ 「フリーター問題」国Ⅱ
⑩ 「金融教育の是非」国Ⅱ
   ……………………
⑪ 「都市の孤独」
⑫ 「クールビズ」

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 「私が知事になったら」

都道府県を受験する場合、県なら県の全体を認識した上で、
主な問題点を把握しておかなければならない。
一職員として個別の問題を扱うにしても、
全体を認識した上での対処が望まれる。

この課題はそのような観点からの要請であり、
受験生の必修課題である。

ここでは沖縄県の例を紹介しよう。
これは飽くまでも、一つの答案例であり、添削例である。


 「私が沖縄県知事になったら」

はじめの答案 添削例・諸注意
 沖縄県が日本に復帰してから30年以上が経ち、これまでに法や社会保障の制度はもちろん、道路や港湾などの社会資本は一応整備されたと言われる。しかし、その一方では基地問題、本土との所得格差、環境問題など、残された問題も多い。このような状況において、行政の長としてどのような対応をしていくべきかを考えてみたい。
 まず、基地問題については、これまで同様にねばり強く日米両政府と交渉を続けるとともに、避けられがちな安全保障や憲法の問題を真正面から議論、研究することを推し進めていかなければならない。私はこの議論、研究の援助者、コーディネイターとしての役割を積極的に担っていきたい。
 次に、所得格差や雇用問題がある。これらの経済問題は結局地域の振興・活性化が一番の特効薬となる。これまで様々な産業の振興を図ってきたが、十分な成果を挙げてこなかった。力を分散させずに戦後の復興期に日本の取ったような傾斜的産業振興が必要ではないか。これからは、豊かな風土、気候をもとに、特例的な立法措置をすれば、他地域との差別化が図りやすい。観光、情報、金融などに力を集中させるべきである。具体的にはシルバーをターゲットにした観光スポットの集積、開発、公共事業としてのシステム開発・研究、金融ビジネス環境の早急な整備などが考えられる。
 多くの基地や島しょを抱え、特異な歴史、文化などをもつ沖縄の発展のためには、国や地域の追随ではなく、上記のような県独自の政策が必要となる。行政に携る者それぞれの高い意識はもちろんのこと、行政は情報公開などアカウンタビリティーを徹底し、地域住民とのコミュニケーションを積極的に図りながら、それを政策に生かしていくという民主主義の基本に立ち返った上で、上述のような様々な課題に対応していきたい。


                (以上、約800字)








※ どんな交渉をするのか、例を挙げる。
※ 憲法については第9条のことか。



← 所得格差の是正や雇用促進の問題がある。



← 傾斜的産業振興が有効であろう。また、亜熱帯性の風土・気候は利用価値が高い。
※ 「観光」以下、「べき」についても講評参照。
※ 列挙する項目を絞って、具体的に。講評参照。



← ※「上記のような」「上述のような」ということが具体的に分かるように、前段階で方策を明確にしておく。


講  評
一、 内容と構成

 沖縄の現状についての認識にはかなりのものがあると見受けられるが、問題点が把握しきれていない。そのため、解決策もアピールする力に欠ける。
 根本的に、問題点を明らかにし、それに対して解決策・改善策を述べるという形で構成してみよう。
 問題点は、1つか2つに絞るとよい。例えば、基地の問題については、基地が多すぎることや、沖縄にあること自体が問題であろう。そのどちらかを選んで、例えば基地を減らすにはどうすればよいか、解決策を具体的に述べるようにする。
 経済問題については、主なものを列挙して、「このうち、Aについて述べてみたい」として、解決策を述べるようにする。
 なお、制限字数が1,200〜1,500である場合は、問題点の数を増やし、解決策・改善策を付け加えるようにすればよい。

二、表記と表現

 「べき」の使い方について。
 学生の答案には、提言をする際によく見られるが、確かな裏づけがないと、使っても説得力を持たない。また、往々にして評論家ふうの感じを与えるものであるが、この答案では知事の立場からの発言であることに注意する必要がある。「私は〜〜する」と断定するか、「〜〜したい」と抱負を述べる表現がよい。

三、評点

 ランク:B、得点75


書き直した答案 添削例・諸注意
 沖縄県が日本に復帰してから30年以上が経ち、これまでに法や社会保障の制度をはじめ、道路や港湾などの社会資本も一応整備されたと言われる。しかし、その一方では基地問題、本土との所得格差の問題など、残された課題も多い。このような状況において、行政の長としてどのような対応をしていくべきかを考えてみたい。
 まず、基地問題については、これまで同様、返還と縮小を求め、あるいは、応分の負担を求めて、日米両政府とねばり強く交渉を続けるとともに、避けられがちな安全保障や憲法9条との関係についても真正面から論議し、対策を講じていかなければならない。私はこの論議、検討のコーディネイターとしての役割を積極的に担って、県民の声を広く収集し、交渉の糧としていきたい。
 次に、所得格差の是正や雇用促進の問題がある。これらの経済問題には、言うまでもなく、地域の振興・活性化が一番の特効薬となる。これまで様々な産業の振興を図ってきたが、十分な成果を挙げたとはいえない。それは一つに、あれもこれもと考えて、力を分散させてしまったからではないかと考えられる。そこで、戦後の復興期に日本の取ったような傾斜的産業振興を提案してみたい。主要産業や、発展が見込める産業をランク付けして、ランクの高いものから優先的に取り組むのである。
 わが沖縄は特異な歴史や文化を有し、気候風土に恵まれている。地域振興のためには、観光を一つの柱とし、もう一つは亜熱帯気候という特性を生かした産業を推進することである。そうすれば、他地域との差別化も図りやすい。産業では農業と漁業が考えられる。農業では従来のサトウキビやパイナップルに加え、パパイアやマンゴーなどの果物の栽培、それに、バナナを導入してはどうか。果物の市場は広く、需要の絶えることはない。もう一つ見逃してならないのは、東シナ海を至近に控えていることである。この好漁場を見逃す手はない。漁獲物には輸送手段と加工方法を考えればよい。私はこのためのレールを行政の手で敷きたいと考えている。市場開拓を視野に、私は農業と漁業の振興を図りたいと考えている。市場を開拓しさえすれば、今が第一次産業復興のチャンスであるかもしれない。
 第一次産業は社会の基盤である。地方分権が推進されている現在、それが自治体の基盤ともなろう。観光と産業の推進に当たっては、国や他府県の追随ではなく、県の特性を生かし、県独自の方法で行いたい。そうすれば、基地経済への依存からも脱却できるであろう。それを目標に、自立した沖縄県政を打ち立てたいと思う。

                (以上、約1200字)















◎ 知事としては、このくらいの具体性と力強さが望まれる。
















◎ 考えれば、いろいろなアイディアが出てくるものだね。

















◎ すばらしい結論になったね。
  字数もこのくらいはほしいものだ。

沖縄問題は「基地経済への依存からの脱却」ということに行き着くのだろう。

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 「顧客主義」

近年、例えば政府が開発を行う場合、
従来のような官僚主導では事業は立ち行かなくなっている。
諫早湾の干拓事業に見られるように、
事業が終わった後でトラブルを起こすケースもある。

そこで、行政では新たな事業を行うに当たっては、住民に参加を求め、
いかに民意を反映させるか、その方法に苦慮している。
これは国家のみならず、都道府県、市町村においても同様である。

はじめの答案 添削例・諸注意
 わが国は現在、少子高齢化、高度情報化、国際化の進展などによって、社会の変革期に直面している。その中にあって、地域には地域福祉や生活環境整備、教育等の諸問題が山積している。こうした社会状況の変化は新たに多様な「住民ニーズ」を生み出している。これらに対して、行政は生活者の視点に立った柔軟な対応が求められている。しかし、地方自治体は財源と人的資源を基に施策を行わなけれならない。
 顧客主義の一つに、態度や行動によるサービスがある。例えば、窓口で明るくにこやかに話すなど、住民へのやさしい対応である。しかし、サービスであるなら、依頼されたことをてきぱきと処理する必要もある。いつまでもにこやかに応対しているわけにはいかない。
 私は、公務員にとっての本来のサービスとは業務の能率的かつ効果的な遂行にあると思う。なぜなら、態度や行動のサービスは大切だが、それだけでは価値とならず、業務がきちんと遂行されて初めて価値をもつからである。もちろん、役所の態度は必ずしも評判がよいとはいえない。態度に改善の余地があるのは確かだが、問題の根本は非能率性や先例にこだわることなど、実際の仕事が進捗しないことにあると思われる。
 結局、行政が「住民ニーズ」に応えていないと言われるのは、その業務を十分遂行できないシステムになっているからである。このような事態は行政サービスが地域独占であり、私企業のように競争にさらされていないからであり、税金によって運営されているためコスト意識が低いからであると考えられる。しかし、住民ニーズが価格というような直接的な指標で評価されていないので、行政の施策が地域のニーズからずれてしまう傾向も見られる。行政は巨大な施設やイベントには熱心だが、生活改善の細やかな要望には応えてくれないという住民の声も多い。
 このような状況を改善するためには、例えば区の場合、区職員が区民から委託を受けているという意識を強化する必要がある。そのためには、顧客第一主義の教育や研修など、職員の認識を高めたり、問題解決の方法を学ぶ機会を与えたりする必要がある。ただ自分の業務をこなすだけでなく、積極的に問題を探し、システムを改善していく方法を考えることも必要である。
 しかし、何よりも大切なのは施策に対して区民からのチェックをしっかりと受けることである。行政のシステムは独善に陥りやすいと言われている。選挙だけがチェックの機会というのではなく、アンケート調査をしたり、区民集会を開いたりして、積極的に区民の要望や批判を聞く機会を設けることも大切と思われる。行政側が自主的に行うことが望まれる。要するに、区民からのあらゆる声にアンテナを張り、区民のニーズに的確に応える柔軟な対応が必要なのである。
 顧客主義とは、個々の様々な満足のサービスに応えるものであり、一朝一夕に成りうるものではない。例えば、健常者への接し方と障碍者への接し方は異なるため、それぞれサービスを変えなければ、満足は得られないだろう。
 様々な要望の長期的な視野にたって対策を行うことにより、住民が安心して暮らしていける社会の構築を目差すことが重要である。その積み重ねが住民の願いを叶え、やがて行政の活力あるサービスにつながっていくものと私は考える。

                (以上、約1,500字)

← 変革期の渦中にある。
← 地方自治体には

← このような社会変動は新たな「住民ニーズ」を……

※ 「しかし、……」の文を削除して、「顧客主義」についての説明を補って、次の段落につなぐ。 

※ 批判が早すぎるので、「しかし、サービス……」以下、次の段落の末尾までを後回しにして、役所の現状や「顧客」についての由来や実例を示す。




※ 問題点は何なのか。そこから逸れないよう注意。






← ……システムに問題があると思われる。










← 東京23区の場合、
















← 的確で柔軟な対応が

← 顧客主義とは様々な住民のニーズに応えるサービスであり、



← ……長期的な展望のもと、住民が安心して……
※ 「その積み重ね」の「その」が何を指しているか不明なので、この末尾の文は削除する。このため、結論部を書き直す。


講 評
一、内容と構成

 結論があいまいであることから察せられるように、何を言おうとするのか、論旨を見失ってしまっているフシがある。それは、住民サービスの必要性を論じながら、顧客主義を批判しているところにも窺われる。
 課題に沿って、例えば、次のように構成してみよう。

 第1段落 ー 現今の社会情勢と行政上の問題点
 第2段落 ー 顧客主義が求められる背景
 第3段落 ー 具体的な方策
 第4段落 ー 結論(提言)

二、表記と表現

 語句の使用は的確に。また、修飾語は短く。いずれも添削例参照。

三、評点

  ランク;C 得点;60


書き直した答案 添削例・諸注意
 わが国は現在、少子高齢化、高度情報化、国際化の進展などによって、社会の変革期の渦中にある。その中にあって、地方自治体には地域福祉や生活環境整備、教育等の問題が山積している。このような社会変動はまた、新たな「住民ニーズ」を、それも様々に生み出している。これらに対して、行政は生活者の視点に立った柔軟な対応が求められている。この対応は、昨今「顧客主義に基づく行政サービス」と呼ばれている。端的には「住民の視点に立ったサービス」である。顧客主義の一つに、態度や行動によるサービスがある。例えば、窓口で明るくにこやかに話すなど、住民へのやさしい対応である。
 かつて行政の仕事への取り組みは「お役所仕事」と言われ、住民にいらだたしい思いをさせたと聞くが、現在でもそれは改まっているとはいえない。行政は「住民ニーズ」に応えていないと言われる。それは、行政の仕事は地域独占であり、私企業のように競争にさらされていないからであり、税金によって運営されているためコスト意識が低いからである。したがって、窓口での態度も誠意のない、つっけんどんなものになってしまうのだろう。もし、これが商店での出来事であれば、客はたちまち寄り付かなくなってしまうだろう。ただし、この点において考えなければならないことがある。商人は必ずしも金銭的な打算で接客しているわけではないことである。いつも買いに来てくれるお客を大事にし、誠心誠意応対していることである。同じ地域に住んでいればなおさらであろう。顧客は仲間でもある。だから、客の求めに応じて商品を用意し、客の求めないものを押し付けるようなことはしないのである。現在、役所にはまさにこのような応対の仕方がもとめられているのである。
 職員の態度について、直接には窓口だが、行政の施策が地域のニーズからずれてしまう傾向も見られる。行政は巨大な施設やイベントには熱心だが、生活改善の細やかな要望には応えてくれないという住民の声も多い。このような状況を打破するためには、職員が住民から委託を受けているという意識を強化する必要がある。そのためには、顧客第一主義の教育や研修など、職員の認識を高めたり、問題解決の方法を学ぶ機会を与えたりする必要がある。ただ自分の業務をこなすだけでなく、積極的に問題を探し、システムを改善していく方法を考えることも必要である。何より大切なのは施策に対して住民からのチェックをしっかりと受けることである。行政のシステムは独善に陥りやすいと言われる。選挙の時だけがチェックの機会というのではなく、アンケート調査をしたり、市民集会を開いたりして、積極的に住民の要望や批判を聞く機会を設けることも大切である。行政側が常に窓を開いていることが望まれる。要するに、24時間アンテナを張りめぐらし、区民からのあらゆる声を受け止め、区民のニーズに的確に応える柔軟な対応が必要なのである。そこにはまた迅速性も求められる。
 役所が住民にあれこれ指示する時代は過ぎ去った。職員はまさに公僕として、住民に顧客のように接する時代がようやく訪れようとしているのである。
                (以上、約1,400字)




はじめの答案の結論があいまいになったのは、
無理に1500字にしようとしたことにあるとも考えられる。
意を尽くしていれば、1,200字でもよい。


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 「観光と行政」


都道府県では、その時点で行政が抱える難題から出題されることが多い。
大きな災害が起これば「災害対策」について、
観光収入が落ち込めば「観光対策」について、といった類である。
また、継続的な課題としては「地域振興」の問題がある。
したがって、
地方自治体を受験する場合は、その土地の実情を知らなければならない。

出題の裏を返せば、自治体は対策に頭を悩ませている、
そこで、受験生に「お知恵拝借」とばかり教えを乞うている、とも考えられる。
ここで大切なのは「アイディア」である。
したがって、この面でも、
受験生はその土地の実情を知らなければならない。

いかに地方自治に関する法的知識を蓄えていても、
また、単に試験日が合うからというだけでは、
説得力のある論述は難しいと考えなければならない。

…………………………………………

ここでは、長野県の例を紹介しよう。
課題は次のようなものである。

 長野県は三大都市圏に近く、豊富な観光資源を有しているが、近年、観光客数・観光消費額が減少傾向にある。観光志向の多様化・個性化の進展を踏まえ、県内の観光地および観光施設の課題を述べた上で、誘客数を増やすため、どのような取り組みが必要か、行政としての関わり方を含めて、あなたの考えを述べなさい。


はじめの答案 添削例・諸注意
 長野県は三大都市圏に近く、交通のアクセスがよい。新幹線や高速道路、空港が整備されていて、三大都市圏から2時間もあればアクセスできる。さらに長野県は附フナ観光資源を有している。軽井沢、上高地、志賀高原、野沢温泉などが県内各地にある。しかし、近年になって観光客の数が減り、観光消費額も減少傾向にある。もちろんその背景には一般的な景気の後退や長引く不況などで旅行に充てる費用が少なくなっていることも考えられる。だが、企業が慰安旅行を廃止するようになったほか、観光客が求めるニーズや観光客の形態も変化してきているのである。
 かつては、温泉やゴルフなどの観光にニーズが偏っており、形態も団体旅行が多かった。しかし、近年では地域の特色を活かした体験型の旅行にニーズがある。例えば、そば打ちや川下り、農業体験などである。そして、一人旅や二人旅など、少人数での観光が増えてきているのである。このような変化に対して、長野県内の観光地や観光施設はまだ対応しきれていないため、観光客数や観光消費額が減少してきていると考えられる。そこで、県内への観光客を増やしていくために、体験型観光の充実と少人数観光客への対応について考えてみたい。
 体験型観光の充実については、農家や県内企業とタイアップして、地元農作物の生産や製造に関わり、実際に味わうことで「五感を使った体験」ができるようにする。そうすれば、観光客は体験した感動を旅の思い出として強く心に刻む。そして、その体験が魅力的であれば、リピートして訪れると考えられる。さらに、観光客の評判がマスコミに取り上げられるようになれば、長野県ならではの体験を求めて観光客が増えると考えられる。
 一方、少人数観光客への対応については、定年退職した夫婦や女性のみのグループに焦点を当てたい。なぜなら、近年これらのグループでの旅行が増えてきているからである。具体的には、夫婦でも利用しやすいように、観光地にスロープを設けたり、乗り降りしやすい小型のバスを巡らせたりして、体力的な困難をできる限り取り除く。女性グループについては、女性が好むような宿泊施設や観光施設を整備していく。そのために、三大都市圏に住む女性に観光モニターになってもらい、生の意見を拾い上げ、実際の施設づくりや観光コースの設定に反映させるのである。
 以上のような取り組みを関係業者と協議して、県内への誘客数の増加を図りたい。

                (以上、約1100字)
※ 問題文との重複を避け、簡潔に。
(例) 長野県は新幹線や高速道路、……整備されており、三大都市圏から2時間もあれば……。さらに、軽井沢、……。



← ……ことも考えられるが、企業が……ほか、客層やニーズが変わってきているのである。

← 温泉やゴルフのニーズが多く、客層も団体客が……











※ 特産物名を具体的に挙げる。

← そうすれば、体験したことが旅の思い出として心に残るであろう。そして、……繰り返し訪れ、友人・知人を誘ってくることも期待できる。
※ 「さらに、観光客の……」のところは、取り上げられるのを待つのではなく、行政が率先して売り込む姿勢を示すようにしたい。











← ……関係業者と協議して、行政はマスコミや旅行会社に積極的に紹介し、また、売り込むべきである。


講 評
一、内容と構成

 提言について、後半の「少人数観光客への対応」には説得力があるが、前半の「体験型観光の充実」ほうは考えが上滑りしている。判断が安易。添削例参照。
 また、行政の関わり方に積極性をもたせるようにしたい。

二、表記と表現

 1.導入部では問題文をなぞらないように。
 2.「リピート」という語の使い方が安易。適当な日本語がある場合はん日本語を使うこと。添削例参照。
 3.内容とも関わるが、締めくくりを力強く。

三、評点

  ランク;B 得点;75


書き直した答案 添削例・諸注意
 長野県は新幹線や高速道路、空港が整備されていて、三大都市圏から2時間もあればアクセスできる。さらに、長野県には軽井沢、上高地、志賀高原、野沢温泉などの観光名所が県内各地にある。ところが、近年になって観光客の数が減り、観光収入も減少傾向にある。その背景には、一般的な景気の後退や長引く不況によって旅行に充てる費用が少なくなっていることが考えられるが、企業が慰安旅行を廃止するようになったほか、観光客の形態やニーズが変化してきているのである
 かつては、温泉やゴルフなどに観光客の人気があり、形態も団体旅行が多かった。しかし、近年では地域の特色を活かした体験型の観光に人気がある。例えば、そば打ちや川下り、農業体験などである。そして、一人旅や二人旅など、少人数での観光客が増えてきている。このような変化に対して、長野県内の観光地や観光施設はまだ対応しきれていないため、観光客数や観光収入が減少してきていると考えられる。そこで、観光客の誘致策として、体験型観光の充実と少人数観光客への対応について考えてみたい。
 体験型観光の充実については、農家と連携して、特産物のソバやリンゴ、根菜類の生産や製造を行い、実際に味わうことで「五感を使った体験」ができるようにする。これは現在の、特に若者の個性化志向に合致するものである。木工細工などの「手作り」もこの中に加えてよいであろう。そうして、体験したことが旅の思い出として心に残り、その体験が魅力的であれば、繰り返し訪れるとともに、友人・知人を誘ってくることも期待される。
 一方、少人数観光客への対応については、定年退職した夫婦や女性のみのグループに焦点を当てたい。それは、近年このようなグループでの旅行者が増えてきているからである。そのため、具体的には、夫婦でも利用しやすいように、急な石段などにスロープを設けたり、乗り降りしやすい小型のバスを巡らせたりして、体力的な負担を少なくし。女性グループに対しては、女性が好むように宿泊施設をはじめ、公衆トイレなどを清潔なものに整備していく。そのために、都市圏に住む女性に観光モニターになってもらう必要もあろう。生の意見を拾い上げ、実際の施設づくりや観光コースの設定に反映させるのである。
 以上のような取り組みを関係業者と協議して、行政はマスコミや旅行会社に積極的に紹介し、また、売り込むようにしたい。

                (以上、約1100字)





長野県に限らず、地方自治体の主たる課題は「地域振興」である。

出題との関係では、その次は当該地域に関わる「時事問題」、……。

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 「文化立県の推進」

石川県の出題であるが、
「文化」を、例えば「スポーツ」に置き換えてみると、
県の違った面が見出せるかもしれない。



 「行政と民間の連携」


東京都の出題である。

はじめの答案 添削例・諸注意
 私はアニメのファンである。3、4年前宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」がアメリカのアカデミー賞で長編アニメ賞を受賞したときは、跳び上がって喜んだものだった。
 近年、日本製アニメが海外での評価を高めている。「ジャパニメーション」という言葉も生まれ、文化の輸入過剰であった日本に、新たな独自の文化として注目を集めている。また、それに伴って上映権やキャラクターグッズの版権など、ビジネスとしても急速に市場を広げている。
 先日、私は新聞で、「行政がアニメ分野における若手の育成を促進している」記事を目にした。少し前まで、アニメは子供向けの娯楽であり、大人が夢中になるのは恥ずかしいというような風潮があった。しかし、最近の文化・ビジネス両面での需要の高まりを受けて、行政が保護・発展の促進に乗り出した格好だ。行政が取り組む上での利点は、長期にわたって安定した形で広く支援を行えることだ。また、企業同士の枠を超えた幅広い活動を行えると期待できることだ。文化の保護と発展を考えた場合、合理性や採算性を優先する民間企業より、行政の方が支援に適していると言える。
 逆の場合も考えられる。例えば高齢者福祉などは、長い間行政とボランティアによって支えられてきた。それが、社会の急速な高齢化によって需要が高まると、民間企業の参入が増え、一気に市場が拡大した。新たに介護保険制度も導入され、高齢者福祉分野は今や巨大産業として成長しつつある。行政の取り組みが、高齢者全体に対する底上げ的な社会保障中心であるのに対して、民間では付加的なサービスが求められる。民間企業が参入する上での利点は、顧客一人ひとりのニーズに対応した幅広いサービスが行えることにある。また、自由競争の原理が働くことで、常にサービスの向上が図られることにもある。
 行政と民間は車の両輪のようなものであると思う。行政は社会保障や教育、福祉など、人々にとって最も必要なサービスを多岐にわたって供給することで、社会の安定を支えている。それに対して、民間は自由競争を行うことで進歩し続け、時には全く新しい分野の産業や文化を開拓して、社会全体を発展に導いている。これら二つの機能を連携し合うことで社会は発展していくのである。そして、互いの利点を活用すれば、より大きな問題にも取り組めるだろう。例えば、行政の抱えている少子化問題に、医療やマスコミなどの民間企業のノーハウを利用してはどうか。また、高度な技術をもった中小・零細企業を、行政が窓口となって海外に紹介し、注文に対して企業同士をコーディネイトすることも有効ではないか。
 ただし、民間企業の飽くなき利潤の追求は、進歩を促す一方で、不正行為につながりやすい。牛肉偽装事件のように、顧客を無視して利益の追求に走ることもしばしば見られる。行政による監視が不可欠となる。そうなると、行政もまた国民の監視の目にさらされていることを忘れてはならない。
 現代社会は多様で複雑な問題を数多く抱えている。行政と民間は互いに垣根を越えて協力し、連携していかなければならない。そして、明るく豊かで健全な社会を次の世代に残さなければならないと思う。

                (以上、約1300字)





← ……生まれている。これまで日本は文化の輸入過剰であったが、アニメは新たな独自の文化として……(※ 守護・述語)






← ……風潮があったが、最近の……


← 企業同士が行政を仲立ちにして幅広い……





← ……急速な高齢化によって福祉の需要が高まると、











← 社会保障やライフラインなど、






※ 「そして、互いの利点を……」以下、次の段落にかけて、論調に乱れが感じられる。「行政と民間」という関係を別の角度から見直してみてはどうか。「講評」参照。


j講  評
一、内容と構成

 導入部の「千と千尋」の話は、奇抜だが、卓抜でもある。興味につられて、ついつい先へ先へと読んでしまう。第3段落の「連携」の事例にもスムーズにつながっている。
 ところが、第5段落に至って、途中で話が停滞してしまっている(添削例・注記参照)。これは、おそらく字数を延ばそうとしたためと考えられる。あるいは、息切れしてしまったか。
 このような場合のヒントは「角度を変えて見る」ことである。例えば、「行政と民間」を、ともすれば「お上と下々」と捉えがちであるが、もともとは同じ国民、都民であり、住民であるから、対立的に捉えるのではなく、国なら国、都なら都、市なら市という共同体の住民として捉え、かつ、役割分担をしていると考えるのである。加えて、行政人を「全体の奉仕者」と規定すれば、両者の関係についての見方が変わってこよう。
 なお、「連携」についてはアニメばかりでなく、ここに述べられている中小・零細企業にも触れるとよい。いわゆる下町には優れた製品が多く、その割には余り知られていないものもあるようだ。この点については、どの分野にも共通するキーワードに考えてもよかろう。
 5段落の中ほどで改行して捉え直してみよう。

二、表記と表現

 誤字・脱字はない。若干の表現については添削例参照。

三、評点

 ランク:B 得点:80


書き直した答案 添削例・諸注意
  私はアニメのファンである。3、4年前宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」がアメリカのアカデミー賞で長編アニメ賞を受賞したときは、跳び上がって喜んだものだった。
 近年、日本製アニメが海外での評価を高め、「ジャパニメーション」という言葉も生まれている。これまで日本は文化の輸入過剰であったが、アニメは新たな独自の文化として注目を集めている。また、それに伴って上映権やキャラクターグッズの版権など、ビジネスとしても急速に市場を広げている。
 先日、私は新聞で、「行政がアニメ分野における若手の育成を促進している」という記事を目にした。少し前まで、アニメは子供向けの娯楽であり、大人が夢中になるのは恥ずかしいというような風潮があったが、最近の文化・ビジネス両面での需要の高まりを受けて、行政が保護・発展の促進に乗り出した格好だ。行政が取り組む上での利点は、長期にわたって安定した形で広く支援を行えることだ。また、企業同士が行政を仲立ちにして幅広い活動を行えると期待もできる。文化の保護と発展を考えた場合、合理性や採算性を優先する民間企業より、行政の方が支援に適していると言える。
 逆の場合も考えられる。例えば高齢者福祉などは、長い間行政とボランティアによって支えられてきた。それが、社会の急速な高齢化によって福祉の需要が高まると、民間企業の参入が増え、一気に市場が拡大した。新たに介護保険制度も導入され、高齢者福祉分野は今や民間の巨大産業として成長しつつある。行政の取り組みが、高齢者全体に対する底上げ的な社会保障中心であるのに対して、民間では付加的なサービスが求められる。民間企業が参入する上での利点は、顧客一人ひとりのニーズに対応した幅広いサービスが行えることにある。また、自由競争の原理が働くことで、常にサービスの向上が図られることにもある。
 行政と民間は車の両輪のようなものであると思う。行政は社会保障やライフラインなど、人々にとって最も必要なサービスを多岐にわたって供給することで、社会の安定を支えている。それに対して、民間は自由競争を行うことで進歩し続け、時には全く新しい分野の産業や文化を開拓して、社会全体を発展に導いている。これら二つの機能を連携し合うことで社会は発展していくのである。
 ここまで、「行政と民間」を対立的に捉えてきたが、それは説明の都合上そうしているだけであって、もともと行政側の人も民間の人も同じ共同体に属しているのであり、共同体の維持・存続・向上のために役割分担をしていると考えるのが妥当である。ここで留意すべきは行政に携る者は「全体の奉仕者」でなければならないことである。したがって、「連携」に当たっては、常に共同体全体の利益なり福祉なりを考慮しなければならない。アニメの世界の発展を促進するという場合、期待されるのは金銭的利益でないとすれば、何であろうか。それは「創造」ということにほかならないと思われる。そうであれば、これはあらゆる分野に適用できる。例えば、いわゆる下町には優れた製品がありながら、まあり知られていないものが多いという。行政はまさにこれらの「創造」を促進し、広く世に知らせる労をとるべきである。そうすれば、零細企業も下請けから脱して、独立性を保てるであろう。「創造」を中心テーマとする限り、「連携」に不正の入る余地もまたなくなろう。そこには新鮮で、活気に満ちた世界が想像される。
 東京都における「行政と民間の連携」はそういう「創造」を仲立ちとしたものでありたい。

                (以上、約1400字)











← 東京・杉並区の例であったか。













































◎ 「創造」とは素晴らしい!








◎ 不正の問題も解消されているね。

個々の構成員の独立性から成る共同体は理想であるが、
あながち不可能な世界とは言えまい。
当事者の、ちょっとした工夫でよいのかもしれない。

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 「地域間格差」

 都市部と地方との間で所得や雇用などの地域間格差が拡大していると言われています。
 あなたの考える地域間格差の例を挙げ、その問題点と対策についてあなたの考えを述べなさい。

これは長野県の出題例であるが、
この問題はどの自治体にとっても引き続き大きな課題となっている。

初めの答案 添削例・諸注意
 構造改革が行われ、地方分権が推進される中で、国から地方への交付税や補助金が削減されている。これにより地方は歳入が減少して財政状況が厳しくなっている。また、都市部には国際競争力のある企業が数多く集中し、人口も多いのに対し、地方は国際競争力のある企業が少なく、人口も少ない。そのため、都市部と地方では生活基盤に大きな格差が生じている。例えば、公共交通機関の整備にも格差がある。都市部では鉄道があり、バスの便も多い。これに対して、地方では鉄道の本数が少なく、バスの便も少ない。さらに、山間部を走るバスなどは採算が取れずに廃線になっているところもある。ここでは交通問題に焦点を合わせて対策を考えてみたい。
 このような状況では、自動車を運転できない高齢者などにとっては影響が大きい。バスの便数が減少すれば、自由に移動できる機会が減り、買い物などができなくなる。また、バスを利用しても運賃が高いため、数多く利用することは経済的に厳しい。さらに、行政も財政状況が厳しいので、老人パスなど運賃の補助も十分にはできない。これが問題である。
 この問題に対して、地域の行政機関や企業などが仕事で地域内を定期的に公用車や社用車で移動していることを利用したい。行政機関では、本庁舎と支所の間を、また、郵便局や農協、企業などでも相互間を往復したり、巡回したりしている。これらを利用するのである。そうすれば、公共交通機関の役割を果たせると考えられる。まず、バスに頼らざるを得ない高齢者を対象に、定期的に移動したい行先と時間について希望を出してもらう。そして、いくつかの希望を合わせてルートと時間を設定する。一方で、行政機関や企業、郵便局などに対してそのルートと時間を提示し、このルートと時間に合わせて車を運行するよう協力を求める。この取り組み協力してもらえる企業には税制面で優遇措置をとり、多くの事業所に協力してもらえるようにする。
 地方では人口が減少し、公共交通機関の便が減少している。今後高齢社会が進むと、なおいっそうこの問題が深刻化して、地域間格差も拡大してしまう。しかし、地域の行政機関や企業などが公用車や社用車で地域内を定期的に移動していることを利用して、公共交通機関に頼っている高齢者などに地域内の公共的な交通手段を提供することで、地方の交通問題への対策となり、ひいては地域間格差への対策になると考えられる。

              (以上、約1300字)





← 地方にはそのような企業が



← ……バスの便も多いのに対し、地方では……




← バス便がないと、自動車を


← 買い物や病院通いなど




← この問題について、行政機関や企業が定期的に地域内を巡回している公用車や社用車を利用することを検討したい。



※ 「まず、」で改行する。


← ……設定する。次に、その案を行政機関や企業などに提示し、







← ……深刻化する。都市部の住民と比べて、格差はますます広がる。しかし、公用車や社用車の利用ができれば、交通問題は解決されるであろうし、その点においては格差解消にもつながると期待される。

格差解消のためなら、企業を誘致するなど、もっと大きなことを考えればよいではないかと思う。
しかし、住民にとってはこのようなことが大事なのだ。
現に、この4、5年後に次の課題が出されている。
「厳しい公共交通機関の現状に対する行政の取り組みについて」

書き直した答案 添削例・諸注意
 省庁再編などの構造改革が行われ、地方分権が推進される中で、国から地方への交付税や補助金が削減されている。これにより地方は歳入が減少して財政状況が厳しくなっている。また、都市部には国際競争力のある企業が数多く集中し、人口も多いのに対し、地方にはそのような企業が少なく、人口も少ない。そのため、都市部と地方では生活基盤に大きな格差が生じている。例えば、公共交通機関の整備にも格差がある。都市部では鉄道があり、バスの便も多いのに対して、地方では鉄道の本数が少なく、バスの便も少ない。さらに、山間部を走るバスなどは採算が取れずに廃線になっているところもある。ここでは交通問題に焦点を合わせて対策を考えてみたい。
 このような状況では、自動車を運転できない高齢者などにとっては影響が大きい。バスの便数が減少すれば、自由に移動できる機会が減り、買い物や病院通いなどができなくなる。また、バスを利用しても運賃が高いため、数多く利用することは経済的に厳しい。さらに、行政も財政状況が厳しいので、老人パスなど運賃の補助も十分にはできない。これが問題である。
 この問題について、行政機関や企業が定期的に地域内を巡回している公用車や社用車を利用することを検討したい。行政機関では、本庁舎と支所の間を、また、郵便局や農協、企業などでも相互間を往復したり、巡回したりしている。これらを利用するのである。そうすれば、公共交通機関の役割を果たせると考えられる。
 まず、バスに頼らざるを得ない高齢者を対象に、定期的に移動したい行先と時間について希望を出してもらう。そして、いくつかの希望を合わせてルートと時間を設定する。次に、この案を行政機関や企業、郵便局などに提示し、このルートと時間に合わせて車を運行するよう協力を求める。この取り組み協力してもらえる企業には税制面で優遇措置をとり、多くの事業所に協力してもらえるようにする。
 地方では人口が減少し、公共交通機関の便が減少している。今後高齢化が進むと、なおいっそうこの問題が深刻化する。都市部の住民と比べて、格差はますます広がる。しかし、公用車や社用車の利用ができれば、交通問題は解決されるであろうし、その点においては格差解消にもつながると期待される。

              (以上、約1300字)













◎ 「ここでは……」という一文が論点を明らかにしている。「問題点がいろいろある中でこの点について述べる」という意味で、極めて大事な一文となっている。

要するに、受験に際しては、現地の実情を知ることが第一義なのである。

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 「公務員制度改革」

 公務員制度改革について論議される中で、国家公務員、地方公務員ともに人員を削減していこうという方向が示されてきている。
 このような論議が起こる背景について述べた上で、公務員の減少に対応した今後の行政サービスの在り方について、あなたの考えを述べなさい。
                  時間:90分、字数:自由(長野県)

2つの答案を紹介しよう。
A氏は大学既卒者、B氏は大学院生である。

A氏の答案 添削例・諸注意
 長引く不況により、税収が減少している。かつてのバブル期には想定しなかったことだ。税収が減少することによって、国や地方自治体は歳出に見合った歳入を見込めなくなり、財政危機に直面している。そこで、国や地方自治体は、限られた予算での行政サービスを行うために歳出の見直しを始めた。この見直しによって、無駄な、効率の悪い予算を削減していこうというのである。そこで、目をつけられたのが公務員の人件費である。仕事量の割には職員が多いことや、同じような業務なのに複数の課や係が存在していることなどが指摘された。この指摘に基づいて、国や地方自治体は公務員数の削減を進めようとしている。
 このような流れは今後も続くと考えられる。これは、少子高齢化で労働者が減少して、税収が大幅に増加することは見込めない反面、社会保障費が増大していくことで、歳出が今まで以上に増加するためである。そのため、国や自治体は今後、限られた少ない予算で効率的な行政サービスを行わなければならない。そこで、業務の効率化として、部課の統廃合、パートタイム職員の採用、業務の民間委託などを検討し実施に移している。しかし、効率化を推進していくと、今度は行政サービスの質の低下が懸念される。問題はこの点である。
 公務員の数が減少しても、行政サービスの質を低下させてはならない。そこで、部課の統廃合や民間委託などを行っていく際には、必ず行政サービスの質を保つようなバックアップ体制を整えておく必要がある。具体的には、長野県での観光部の設立がある。これは今まで農政部門や商工部門がそれぞれ別個に観光施策を行っていたのを一元化したもので、観光行政の窓口を一つにしたことにより、少ない人員で効率的な運営ができるようになった。しかも、各部門の職員で構成することによって、サービスの質を保てるようになっている。その上で、行政サービスが低下していないかどうかをチェックする必要もある。そのためには、住民にモニターになってもらうのが最良であろう。その際、行政サービスの形態について意見も出してもらう。そうすれば、公務員の数が減少しても、住民が納得する行政サービスができると考えられる。

              (以上、約1100字)
























◎ 前置きが長いが、ここで論点が明らかになっている。




◎ 具体例・実例が確かな論拠となって、説得力を産み出している。
◎ 現状を肯定するばかりでなく、、自分の考えを出しているところに、信頼や期待が寄せられよう。

※ 「その上で」で改行し、この提言を以って結論とすればよい。

A氏は文系で、B氏は理系である。

B氏の答案 添削例・諸注意
 公務員の削減を必要とする背景には、行政機構の肥大化をきっかけとした国の省庁再編がある。行政機構のスリム化のため、国は省庁再編と地方分権を行い、これに伴って人員削減を行っている。地方自治体ではサービス向上の要求に対して税収不足であることから、無駄を省くことと、業務の効率化が求められている。その一方で、公務員の減少が進めば、実施すべき業務の数に対応できなくなると予想される。そこで、本論では、人員減少という状況の中でいかにサービスの質を維持できるかを、人材育成の面から考えてみたい。
 公官庁も民間企業と同様に、研修内容の充実化が求められる。そこで、一般知識よりも実務を重点とした研修内容の改善を提案する。現在の公務員の研修では一般知識の修得が中心となる傾向がある。実務については研修の効果が出にくいと言われるが、即戦力となるような実務経験を増やす必要がある。一般知識の修得は、公務員内定後から入庁までの期間に通信教育によって行い、入庁後はすぐに現場に出して実務に当たらせる。こうすることで、即戦力となる人材を短期間で得ることができ、業務が進むと期待される。
 これに加えて、情報処理に重点を置いた、研修内容の改善を提案する。近年、電子申請サービスが中央省庁のほか、地方自治体にも普及している。これにより、例えば税金の申告、住民票の登録申請といった手続きがインターネット上で行えるようになり、職員が必要とする業務の負担が減ってきている。しかし、インターネットによる処理に移行する項目が増えると、現在のシステムが見直し、新たなシステムの構築が必要となり、それに対応できる専門家が求められる。そのため、情報処理に関する基本的知識から実務におけるスキルまで職員教育を充実させる必要がある。情報処理の専門家を育成することによって、電子申請を活発化させ、これによって人的負担を軽減することができる。その際、最も重要なことは住民に「分かりやすいこと」であるが、これは実務を通して改善していけばよいことである。
 以上のように、研修を見直すことによって、少人数でも適切な行政サービスが実現できるであろう。人員削減を、効率のよい人材育成の後期と捉えるべきである。

              (以上、約1100字)







← 実施すべき業務に質・量ともに対応できなくなると……




← 実務に重点を置いた研修内容を提案する。


← ……出にくいと言われるが、現在のような効率化が求められる状況においては特に。即戦力となるような……








← 人員を必要とする業務






← 情報処理の専門家を職員の中で育成することによって

◎ この「分かりやすさ」に留意しておきたい。


公務員試験では、特に地方上級においては、
よりよい施策のためのアイディアを求めているといえるが、
両氏のアイディアはともに歓迎されよう。

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 「地方分権と道州制」

 地方分権が推進され市町村合併が進むと、それによって道府県の役割が希薄になると考えられる。そのため、道州制の論議が浮上している。
 これについて、あなたの考えを述べよ。


準備中




ちょっと待っていてね。

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 「フリーター問題」(国Ⅱ)

国家Ⅱ種の設問はまことに親切である。
指示が分かりやすい。

課 題 文

 1980年代後半、我が国では、正社員になろうと思えばなれるにもかかわらず、パート・アルバイトなどの多様な働き方を自ら進んで選択する人々がフリーターとして注目を集めた。その当時は、旺盛な企業の雇用需要を背景として、フリーターという言葉には「自由で新しい生き方」という肯定的な意味が与えられていた。しかし、1990年代以降の雇用情勢の悪化により、近年では、正社員としての就職を希望していながらも、やむを得ずにフリーターとしてパート・アルバイトなどの働き方を選択する人が多い。また、フリーターの人数の推移は、次のグラフのとおりである。これに関して、①および②の問いに答えなさい。 

※ 「平成17年版労働経済白書」より転記。なお、1982年から
1997年までの数値と2002年から2004年までの数値とでは、
フリーターの定義等が異なっていることから接続しない。
① フリーターが増加している要因として考えられるものを二つ挙げて説明しなさい。

② フリーターが増加している状況に対して、行政が採るべき施策としてはどのようなものが考えられるか。あなたが考える施策を二つ挙げて具体的に説明しなさい。

①の答案例 添削例・諸注意
 平成18年度版「労働経済白書」によると、1982年から1997年の15年間に、約100万人のフリーターが生じている。その主な原因として二つが考えられる。
 一つは、企業が正社員の採用を必要最小限に抑えていることである。1980年代後半から見られる円高−ドル安やバブルの崩壊により、輸出が多い日本企業は大きなダメージを受けた。そこで、日本企業は企業自体を守るために、新卒採用を控えた。その結果、正社員になりたくてのなれない人があふれ、止むを得ずフリーターになった人が増加したのではないか。
 もう一つは、1980年代に成立した労働者派遣事業法(1999年、2003年に改正)である。経済がグローバル化していく中、日本企業は世界で生き残るために、最も費用のかかる人件費を削減しようと考えた。そこで、低コストで、いざという時には解雇しやすいフリーターを大いに受け入れた。その結果、フリーターが増加したと考えられる。
              (以上、約400字)











← ……増加したと考えられる。

※ 「同法によって、業務請負と労働者派遣の境界があいまいになった」ことを補っておこう。

字数は参考までに。
国家Ⅱ種では字数の指定はない。

①では現状分析がよくなされている。
さあ、これが②にどのようにつながっているだろうか。

②の答案例 添削例・諸注意
 一つは、正社員への道を開くために、労働者派遣事業法改正し、フリーターを正社員化する企業を支援していくことである。具体的には、フリーターの正社員化を行う企業に補助金を出すことである。正社員は、よほどのことがない限り解雇することができないため、不況の中を生き抜く企業にとって正社員を雇うことは容易なことではない。そこで、行政が補助金を出すことによって雇用の活性化を促す。このような支援策を行政はとるべきである。
 もう一つは、職業訓練校の質の向上を図ることと、そこへ通う人々の生活費を支給することである。フリーターの多くは専門的な技術をもっていないため、低コストで働かざるを得ない。また、職業訓練校を卒業しても、それを評価する企業があまり多くないため、職業訓練校の存在価値は低い。加えて、職業訓練校に通っている間の生活費は自費でまかなわなければならないため、お金に余裕のない人は、結果としてフリーター生活から脱することができない。そこで、行政がこれら両者の支援をすることが望まれる。
 フリーターの正社員化は社会の安定化にもなると考えられる。
              (以上、約500字)


← 具体的には、これを実行する企業に……

①から②へと話がうまくつながっている。
現状分析がよければ、解決策もスムーズにいくという例である。


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 「金融教育の是非」(国Ⅱ)

課 題 文

 私たちは、好むと好まざるとにかかわらず、日々「お金」と関係しながら暮らしている。
 しかし、「お金」について、我が国では「人生の幸福は、お金では買えない」、「子どもに対して、早くからお金について教えることは良くない」、「お金を増やすことばかり考えると、人間は働かなくなる」などの意見にみられるように、「お金」に関して否定的なイメージで捉えられることが少なくない。他方、「お金」に関することは生活をする上で基本的なスキルであり、人前で「お金」の話をすることを恥ずかしいと考えたり、金儲けの話をタブー視する風潮はおかしいとする意見もある。
 また、近年、我が国では、ペイオフの解禁、金融商品・サービスの多様化、IT化を含めた販売チャンネルの多様化など、金融を取り巻く環境が大きく変化しつつあり、多重債務問題や詐欺犯罪などのようにお金をめぐるトラブルも起きていることから、義務教育などの早い段階においてもお金に関する正しい知識を身に付けさせるため、金融教育の必要性が指摘されている。
 これに関して、①および②の問いに答えなさい。

① 上記の意見を参考にしつつ、あなたにとって「お金」とは何であるか、また、その「お金」とのかかわり方について論じなさい。

② 金融教育のメリットとデメリットを比較した上で、金融教育を実施することの是非について論じなさい。


①の答案例 添削例・諸注意
 私にとって「お金」とは、物々交換と違って、自分の欲しい物が欲しい時に簡単に手に入れることができる手段であると考える。仮に物々交換であっても、欲しい物と交換できるかもしれない。しかし、それを手に入れるには、対価となる物を持って探し回らなければならない。しかも、その対価となる物は必ずしも相手の欲しい物と一致するとは限らない。その点、「お金」は交換の仲立ちをしてくれるから便利である。現代においては、自給自足の生活をするのでない限り、「お金」はなくてはならないものである。これは課題文の「生活をする上での基本的スキル」に当たる。
 また、「お金」との関わり方として、例えば家計では、収入と支出のバランスをとることが大切である。私は現在、アルバイトもせず、必要なお金は親に出してもらっているので、あまり無駄遣いをしないように心がけている程度であるが、収入と支出のバランスを誤ると、借金生活に陥る恐れがある。バランス感覚を失うと、多重債務によって生活が崩壊するかもしれない。したがって、安定した生活を維持するためには、「お金」とのかかわりにおいて、収支のバランス感覚を養うことが大切になってくる。 

             (以上、約450字)


← ……手段である。(※「私にとって」とあるから、「考える」は不要。

まずまず順当な「お金観」であろう。
字数は参考までに。

②の答案例 添削例・諸注意
 まず、金融教育のメリットとして、大きくは2つのことが考えられる。
 一つは、お金をめぐるトラブルを防止できるということである。多重債務問題や詐欺犯罪に巻き込まれる人たちの多くは、それらを予防するための情報を知らないことが多い。例えば、振り込め詐欺の被害者の多くは高齢者である。ATMに銀行員や警察官が張り付いて監視と説得に努め、また、テレビでキャンペーンを行うことによって、被害件数が減少しつつある。詐欺グループの新手に引っかかる高齢者は跡を絶たないが、テレビでのキャンペーンは「教育」の一環として役立っていると考えられる。
 もう一つは、金融教育によって、無駄づかいをを防止できると期待できることである。例えば、自分の持てるお金が有限であることを教えれば、自分の収入の範囲内で買い物をしようと考えるようになるだろう。そして、安易にクレジットカードを使用したりサラ金からお金を借りたりすることがなくなるだろう。そうすれば、家計の健全さも保たれるのである。
 次に、デメリットとしても2つのことが考えられる。
 一つは、教育の機会が設けにくいことである。金融教育をする際にはその準備に時間、場所、費用、労力を要する。教師の過労が問題となっている現代において、これ以上教師の負担を増やすことは難しいと考えられる。
 もう一つは、金融教育で習ったことを利用して犯罪に走る危険性のあることである。私の身近な例を挙げると、法律学の授業で金融犯罪を法律に視点から学んだのだが、その授業を受けていた男子学生が、その時学んだ手口で詐欺を働いたのである。このケースはまれであるかもしれないが、そのような危険性はあるであろう。
 以上を考え合わせると、デメリットよりもメリットのほうが大きい。よって、私は金融教育はすべきであると考える。

              (以上、約750字)
   





※ 課題文には「義務教育などの早い段階で」とあるので、対象を小中学生に絞ろう。
 そうすると、内容もそれに見合ったものにしなければならない。次の「もう一つ」と考え合わせると、①との関係で、お金の発生や意義を教えるという方法もある。











※ これはデメリットというよりは、実施が困難であるということであるから、別に取り上げるとよい。また、お金の使い方は家庭教育の問題であるという観点も考慮する必要がある。
 ここでは、「もしこれに時間をかけると他の授業が犠牲になる」というふうに捉えるとよいか。

←◎ 具体例として出色。

仕上げにはもう一手間かけかければならないが、
他日を期すことにする。

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 「都市の孤独」


地方上級では時事的な社会問題に関する出題も多い。
これは横浜市の出題である。横浜市はユニークな出題で知られる。

こんな課題にはどう取り組めばよいのだろうか。

はじめの答案 添削例・諸注意
 都市には労働のために流入してくる人が多く、身近に親戚などの相談相手のいない状況が珍しくない。地域の人間関係が薄れ、家族単位が小さくなる中で、特に専業主婦は孤独に陥りがちである。育児を背負い込み、ストレスに押しつぶされそうになるケースもある。そして、それが虐待も招く原因ともなっている。
 公園で知り合った母親が、好意で自分の子どもにくれる菓子を断りたいのに断れず、イライラから子どもに当たってしまう母親や、赤ん坊の泣く理由が分からなかったり、言うことを聞かない子どもに手を上げたくなったりする自分は失格だとなげくなど、悩みを抱えている母親は想像以上に多いという。育児の最初の一歩につまずき、それを「いいんだよ」と後押ししてくれる人が周りにいないことが背景にある。
 そうした母親達の支援の一つに、行政が進める「子ども家庭支援センター」がある。育児支援の核施設として、母親講座や電話相談などを行うとともに、母親同士のコミュニケーションの場を提供している。また、子育てを終えた50、60代の主婦らがボランティアで託児や母親の相談相手になってくれる。初めて子どもを持ち、不安を抱える母親も、他の親子を参考にでき、子ども同士のおもちゃの取り合いなどを自然に勉強していくことができる。些細な悩みも顔なじみのスタッフになら、気軽に話すことができる。
 行政の施策以外にも、企業が行う育児相談サービスやNGO,育児サークルの活動など、母親を支援するチャンネルは意外に多い。しかし、孤独な母親達にそのような情報をどうやって届け、サービスの違いや質の見極め方を伝えていくかが今後の課題といえる。働く母の子を「保育に欠ける」として保育所を整備するように、狭い室内で話もせずにいる親子も「保育に欠ける」状態にあると認識し、支援する必要があると思う。

              (以上、約800字)

← ……のいない人が少なくない。
← また、大都市では地域の……

※ 論点を「孤独な母親」に絞る旨の断りを入れて、次に移ろう。


※ 母親の形態を、「〜〜の母親、〜〜の母親、〜〜の母親」という形で整えよう。





※ この支援センターはどこにあるのかな。








← 行政の施設のほかにも、

← しかし、孤独な母親達にそのような情報はあまり届いていない。
← サービスの種類や
← 働く母親のために保育所を整備するばかりでなく、狭い室内で……



内容も構成もよい。ただし、
どこに焦点を当てるかを明示する必要がある。
また、表現に的確さを期したい。

書き直した答案 添削例・諸注意
 大都市には労働のために流入してくる人が多く、身近に親戚などの相談相手のいない人が少なくない。また、大都市では地域の人間関係が薄く、家族単位が小さくなる中で、特に専業主婦は孤独に陥りがちである。育児を背負い込み、ストレスに押しつぶされそうになるケースもある。そして、それが虐待も招く原因ともなっている。都市では、いわゆる出稼ぎの人や一人暮らしの老人の孤独死もたびたび報道されているが、ここでは孤独な母親について問題点を考えてみたい。
 公園で知り合った相手の母親が自分の子どもに菓子をくれたのを、断りたいのに断れず、受け取った子どもに当たってしまう母親や、赤ん坊の泣く理由が分からず憔悴してしまう母親、言うことを聞かない子どもに手を上げたくなる自分を母親失格だと嘆く母親など、悩みを抱えている母親はかなりの数にのぼると推察されている。これらはいずれも、育児についての相談相手が周りにいないためである。
 そのような、悩める母親の支援策の一つに、「子ども家庭支援センター」がある。これは横浜市にも、東京都では区や市の自治体に設置されており、育児支援の核施設として、母親講座を開いたり、電話に乗ったりするとともに、母親同士にコミュニケーションの場を提供している。子育てを終えた50、60代の主婦らがボランティアで相談相手になってくれる。初めて子どもを持って不安を抱える母親も、他の親子を参考にでき、子ども同士のおもちゃの取り合いなどを自然に勉強していくことができる。些細な悩みも顔なじみのスタッフになら、気軽に話すこともできるようになる。
 問題は、このようなセンターの情報が孤独な母親達に届いていないことである。せっかくの、役に立つサービスをどうやって伝えていくかが今後の課題である。今は住民票を頼りに一軒一見回るしかないのかもしれないが、一番の問題は子どもが無事に、健やかに育っているかどうかである。

              (以上、約800字)







◎ この断り書きを入れておけば、「木を見て森を見ず」という印象は免れる。
























◎ ずいぶんすっきりとまとまったね。
 何より、子どものことに言及しているのが問題の深刻さを窺わせる。アピール効果が一気に高くなった。

書き直しを指示すれば、たいていの人はほぼ過不足なく書ける。
にもかかわらず、
初めの答案が乱雑なのは、じゅうぶんに筋書きを考えずに書き始めるためであろう。

制限時間が60分なら、20分をプロットづくりに充てること。
そうすれば、
800字程度なら、30分もあれば書ける。おまけに10分、推敲の時間も取れるのだ。

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 「クールビズ」

数年前、クールビズが提唱された頃、新聞の「オピニオン・私の視点」という欄に
大要次のような意見が寄せられた。筆者は「服飾文化史」の大学教授である。

 「クールビズ」が政府関係者を中心に実行に移された翌日、テレビで、上着とネクタイなしのワイシャツ姿の男性が椅子から立ち上がって話し始めるのを見たとき、裁判所で弁明する被告人だと思ったが、国会の委員会で答弁する大臣であった。傍らに、ネクタイなしの病み上がりのような人がいるなと見れば、これも閣僚であった。
 ネクタイは19世紀の初頭、イギリスで紳士のドレス・コード、つまり、信頼のおける、教育を受けた文化人の記号として定着し、今日に至っている。したがって、ネクタイを省いたシャツ姿は、紳士の誇りと尊厳を失わせるものである。また、ワイシャツはネクタイを結ぶことを前提に生み出されたものであるから、ネクタイなしのワイシャツ姿は着替え途中の半端な姿である。さらに、背広は19世紀の終わりごろに生まれたものであるが、中世末期以来500年にわたって洗練され続けた上着の伝統を踏まえており、ネクタイとの組み合わせによって体形を引き立てている。現代においても着る人に社会人としての自信を与え、複雑な社会を生き抜く上での鎧(よろい)ともなっている。
 ネクタイを取り背広を脱ぐと、「涼」を得られるであろうが、失うものは少なくない。世界には風土に即した伝統服があることでもあり、ネクタイ付き背広が絶対というわけではない。ネクタイなしを前提とした襟のデザインを試みるよう提案したい。

問題文は次のようになっている。
「この記事を読んで、『クールビズ』についてあなたの考えを書きなさい」

はじめの答案 添削例・諸注意
 日本の暑い夏にネクタイと背広は、確かに暑苦しいだろう。「クールビズ」を楯に、ネクタイと背広なしの姿の男性が増えたことでも、その暑苦しさがうかがえる。
 政府関係の省庁では、この記事にもあるように、テレビで放映されているとおりであるが、民間でのクールビズはどの程度実行されているのだろうか。私の通っている会社の本社では、冷房温度は28℃だが、服装は例月と変わらない。製造部門では作業着を着ており、技術部門では私服のため、常にクールビズスタイルである。けれど、外に出て行く営業の男性は皆ネクタイをしている。ワイシャツの袖は長袖や半袖とまちまちだが、暑いと言いながらもネクタイは締めている。本社で唯一冷房温度の低い部署がある。お客様が来る場所なので、涼しくしてある。同じ会社でも、営業所になると、様子も違ってくる。私の通っている職場では、冷房温度は26〜27℃である。お客様が来るので、涼しくしてある。ここで接客する男性は皆ネクタイを締めている。外回りから帰ってきたばかりの男性はネクタイとボタンを外しているが、お客様に呼ばれると、ネクタイを締めて出て行く。ここからうかがえることは、お客様に対して敬意を表しているということである。暑い中をわざわざ足を運んでくださったお客様に対して、くつろいだ格好では申し訳ないという気持ちの表れであろう。
 では、同様に、お客の集まるデパートではどうだろうか。やはり、冷房温度は低めである。そして、紳士服売り場の人を除くと、ほとんどの人が上着とネクタイをしている。これもやはりお客様への敬意の表れであろう。また、高い品を扱うのに、くつろいだ服ではいけないという、接客する側の配慮もあろう。
 このように、政府の提唱するノーネクタイ姿は、民間レベルではあまり実行されていないのである。また、お客様を迎える場所では冷房温度は下がったままであった。ノーネクタイ姿が浸透しない背景として、ネクタイと上着の着用が、仕事をする男性の正装だと広く認識されている、ということが挙げられる。この、いわば「常識」を変えるのだから、政府の押し付けで簡単に変わるものではない。実際に現場に立つ私たちと、お客様にもなる私たちが考えて実行するものである。
 日本には古来より、日本の夏に合った服装があった。浴衣や甚平、作務衣などがそうである。欧米への劣等感のある日本人の第二正装としては難しいかもしれないが、日本人としての伝統と誇りを取り入れてほしいものである。

                (以上、約1000字)














← ……部署がある。お客様相談室である。同じ会社の中でも、






← ネクタイを締めて店頭に出て行く。





← 紳士服売り場の店員は、クールビズの推進のためか、ネクタイを外しているが、他の売り場ではほとんどの店員がネクタイを……









← 最も良いスタイルは、現場に立つ私たちと、客にもなる私たちが考えていけばよいことである。




← ……取り入れたいものである。

この答案の筆者は女性である。
導入部に日本の暑さをもってきて、現在の会社での見聞をもとに述べているので、
批判や提言にはじゅうぶん納得できるものがある。
模範答案の一つである。Aランク、85点。

書き直した答案 添削例・諸注意
 日本の暑い夏にネクタイと背広は、確かに暑苦しいだろう。「クールビズ」を楯に、ネクタイと背広なしの姿の男性が増えたことでも、その暑苦しさがうかがえる。
 政府関係の省庁では、この記事にもあるように、テレビで放映されているとおりであるが、民間でのクールビズはどの程度実行されているのだろうか。私の通っている会社の本社では、冷房温度は28℃だが、服装は例月と変わらない。製造部門では作業着を着ており、技術部門では私服のため、常にクールビズスタイルである。けれど、外に出て行く営業の男性は皆ネクタイをしている。ワイシャツの袖は長袖や半袖とまちまちだが、暑いと言いながらもネクタイは締めている。本社で唯一冷房温度の低い部署がある。お客様相談室である。また、同じ会社でも、各地の営業所になると、様子が違ってくる。私の通っている営業所では、冷房温度は26〜27℃である。お客様が来るので、涼しくしてある。ここで接客する男性は皆ネクタイを締めている。外回りから帰ってきたばかりの男性はネクタイとボタンを外しているが、お客様に呼ばれると、ネクタイを締めて店頭に出て行く。ここからうかがえることは、お客様に対して敬意を表しているということである。暑い中をわざわざ足を運んでくださったお客様に対して、くつろいだ格好では申し訳ないという気持ちがあるのだろう。
 では、同じように接客を主とするデパートではどうだろうか。冷房温度は、やはり低めである。そして、紳士服売り場の男性店員は、クールビズの推進のためか、ネクタイを外しているが、他の売り場ではほとんどの男性は上着とネクタイをしている。これもやはりお客様への敬意の表れであろう。また、高い品を扱うのに、くつろいだ服ではいけないという、お客に対する配慮もあろう。
 このように、民間レベルでは、政府の提唱するノーネクタイ姿は、あまり実行されていない。また、お客様を迎える場所では冷房温度は下げたままである。ノーネクタイ姿が浸透しないのは、ネクタイと上着が、仕事をする男性の正装だという認識が広く行き渡っているためなのだろう。この、いわば「常識」を変えるのだから、政府の押し付けで簡単に変わるものではない。最も良いスタイルは、現場に立つ私たちと、客にもなる私たちが考えていけばよいことである。
 日本には古来より、日本の夏に合った服装があった。浴衣や甚平、作務衣などがそうである。欧米への劣等感のある日本人の第二正装としては難しいかもしれないが、日本人としての伝統と誇りを取り入れたいものである。

                (以上、約1000字)
 

◎ 確かに日本の夏は暑く、湿気も高い。暑苦しい話が前置きにあるから、次の話が納得づくで読んでいけるのだね。












































※ 浴衣、甚平、作務衣を列挙した後に、「浴衣はくつろぎ着であり、甚平では毛脛がむき出しになるから、作務衣がよいだろう。あれは確かに仕事着であり、襟もきちんとしている」といった意味のことを入れておきたい。そうすれば、記事にある「襟」の提案に呼応することにもなる。

「襟」といえば、「開襟シャツ」がある。あれはノーネクタイ用である。
市役所ではアロハシャツを着用しているところもあるが、
「ふざけている。仕事場には似合わない」との批判もある。
開襟シャツなら、色が白で清潔感もあるから、職場用にはよいかもしれない。

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早春の太平洋(茨城・阿字ヶ浦)