ジェット機

ドキュメンタリー

勇樹くんの
作文みるみる上達記
1.はじまり
2.第1ラウンドー①最初の答案
3.第1ラウンドー②助っ人
4.第2ラウンドー前半
5.第2ラウンドー後半
6.第3ラウンド
7.第4ラウンド

…………………………

 この「上達記」を読んで

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作文打出の小づち 総もくじ
作文編  国語編  小論文編  閑 話

1.はじまり

 ある日、神奈川のあるお父さんから電話があった。
中1の息子さんについての相談である。概略次のような事情であった。

 勇樹は幼少の頃から比較的おとなしい子で、成長するにつれてますます寡黙になり、親ともあまり会話をしなくなりました。最近では喜怒哀楽も表さなくなり、この子は感情が乏しいのではないか、いったい何を考えているのだろうと思うこともしばしばです。
 しかし、学校の担任に学校での様子を聞いてみると、非常に生活をエンジョイし、交友関係も良好だとのことです。そうすると、寡黙なのは自分の感情を表現する手段が不足しているからではないかと思うようになりました。今までは漫画以外の読書は皆無に近く、作文の宿題が出ると、何も書くことがないと言い、たった数行で終わってしまいます。
 そこで、言葉を知り文章を作るということ、言葉を書き連ねるという作業すれば、それを通して表現力が生まれ、やがては感情の表出にもなるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

 最初の電話があったとき、取り得る方法をひととおり話した。
その2〜3日後に、「息子がやってみると言っている」との連絡が入った。
さっそく原稿用紙を送る。課題は「きのうあったこと」とした。

 道場では通常、「書けない」という子にはこの題にする。
これなら、書けないということはない。
朝は何時に起きて、夜は何時に寝たか。その間、何があったか。朝食や給食のこと、
学校でのこと、行き帰りのことなどをよく思い出して書いていってもらえばよい。

 これは、単に書きやすいから、というばかりではない。
効果について少し深入りをして言えば、
事柄や物と言葉との対応(コト・モノとコトバとの対応)の基礎づくりでもある。
対応関係は身近なものほど把握しやすく、基礎を養うにはそのほうが好ましい。

 この方法を取る場合、道場ではふつう、書いてもらった事柄の中の一つを取り上げ、
具体的に様子を聞き出すことによって中身を広げていく。
 お父さんには勇樹くんに、「メモふうでもよいから書いてみよう」と伝えてもらう。
 

2.第1ラウンド−① 最初の答案

 4,5日後に、最初の答案が届いた。

作文のコピー

 答案の文字が薄くて読みにくいかもしれない。次のように書かれている。

        「昨日のこと」

朝起きてごはんを食べた。
部活の試合で大磯へ行った。
一回戦で負けて帰ってきた。
釣りへ行った。
魚はいたけどつれなかった。
店にいって、つり具を見た。
帰ってから、学校でもらったプリントをやっ
た。
ごはんをたべた。
テレビを見た。
ねた。

 まさにメモである。
だが、これだけあれば、じゅうぶんな手がかりになる。
話を2つ引き出せそうだ。
すなわち、①「部活で大磯へ行ったこと」と②「釣りに行ったこと」とである。

 勇樹くんとは電話とファクスでやり取りすることにした。
まず、①を取り上げ、ファクスで次の指示をする。

 ○ 「部活で大磯へ行ったこと」について、「テニス」という題で書く。
 ○ 何月何日、何時にどこへ集合したか。
    引率者はだれで、部員は何人か(男女それぞれ)。
 ○ 大磯までは何で行ったか。
    電車でなら、大磯駅には何時に、また、会場には何時に着いたか。
 ○ 練習試合か大会か。大会なら大会名を。
    出場したのはだれか。自分はどうしていたか。
    試合の様子や経過を詳しく。スコアは何対何であったかなど。
 ○ 負けた後、昼食は食べたのか。全員いっしょに帰ってきたのか。
    どこで解散したのか。家には何時に帰ったのか。
 ○ その日のテニスの試合について思ったこと、感じたこと。

 これに対して、中1日で次の答案が届いた。
  

     「テニス」

10月9日、6時30分に駅に集合した。
引率者はいなくて、部員は20人ぐらいで、女子はいなかった。
大磯までは電車でいって、会場には8時ごろついた。
中地区の団体戦で、部長と他5名がでた。ぼくは、その応援をしていた。みんながんばっていたけど、相手が強くて負けてしまった。
結果は1対2で負けた。
終ったら、昼食を食べて、先生の話を聞いて会場で解散して、すぐに帰った。駅には、2時ごろついた。
ぼくは、中地区に出ている方の中学校は、もっと強いと思ったので、今後の練習はもっときびしくやらないとだめだなあと、思いました。 

 

 メモがふくらんで、材料がかなり出てきた。
 通常はここで答案に朱を入れ、段落構成や用字用語について注意を与える。
しかし、この答案はまだメモの域を出ない。
段落等の形式面については追々注意していけばよいが、内容面では題にも即して、
例えば、試合の経過がもっと分かるものであってほしい。
答案の分量は20字×15行で、約300字である。
せめて400字を超えて、できれば600字程度のものにしたい。

 ただ、これ以上の注文をつけても、負担が多く、筆が進まないかもしれない。
下手をすれば、くどい感じで敬遠されることにもなりかねない。
今回はこれにとどめて次に進むのも手である。
しかし、作文とはこんなもの、と思われては、進歩が期待できない。

 そこで、代わりに書いて見せることにした。
この答案の足りない部分を想像によって補うのである。
そうすれば、何をどう書けばよいか分かるだろうし、
それを書き写せば、段落構成等の形式について要領も得られよう。
事実と違う部分はもちろん書き直さなければならない。
事実を具体的に書くという点で、それがねらいでもある。

 あくまで原文を尊重して加筆し、次の例文を送信した。
得点の数え方は、ウィンブルドンテニスの中継などを見た記憶をもとに、うろ覚えのまま適当に書いた。
果たして、どんなふうに訂正されて返ってくるだろうか。

     テニス

 10月9日、今日は早起きをして6時30分に
駅へ行った。テニスの試合で大磯へ行くのだ。
男子部員だけ、20人ぐらいが集まった。顧問
の先生とは試合の会場で落ち合うことになって
いる。6時45分ごろの電車に乗った。大磯駅
からは歩いた。会場には8時ごろに着いた。
 今日は中地区の団体第1回戦だ。僕たちの
テニス部は、夏休みに3年生が引退して、9月
からは2年生が中心の新しいチームになってい
る。試合には新しい部長の大山君と2年生の5
人が出た。僕たちはその応援だ。相手はとても
強く、第1ゲームはセットカウント6対5で先取さ
れた。しかし、うちのチームの選手たちもがんば
って、第2ゲームは6対5でタイにした。もしかし
たら勝てるかもしれないと思った。だから、応援
には力が入った。ポイントを取るごとに声が大き
くなっていった。ところが、第3ゲームでは相手
が強すぎた。6対0でストレート負けし、結局、
ゲームカウント2対1で負けてしまった。
 試合の後、弁当を食べ、先生の話を聞いて、
会場で解散した。2時過ぎに家に帰った。
 今日の試合は2対1だったが、中地区に出て
いる他の学校はもっと強いと思うので、今後の
練習はもっときびしくやらないとだめだと思った。

 19日に送って、21日に訂正したものが届く。

     テニス

 10月9日、今日は早起きをして6時30分に
駅へ行った。テニスの試合で大磯へ行くのだ。
男子部員だけ、20人ぐらいが集まった。顧問
の先生とは試合の会場で落ち合うことになって
いる。6時40分ごろの電車に乗った。大磯駅か
らは歩いて、会場には8時ごろに着いた。
 今日は中地区の団体第1回戦だ。僕たちの
テニス部は、夏休みに3年生が引退して、9月
からは2年生が中心の新しいチームになってい
る。試合には新しい部長のH君と2年生の5人
が出た。僕たちはその応援だ。相手はとても強
く、第1ゲームはセットカウント3対0のストレート
負けで、先取された。第2ゲームは、うちのチー
ムの選手たちもがんばっていたが、3対1でまけ
てしまった。もう勝負はついたのだが、第3ゲー
ムを行った。これはセットカウント3対2で勝っ
た。結局、ゲームカウント2対1で負けてしまっ
た。
 試合の後、弁当を食べ、先生の話を聞いて、
会場で解散した。2時過ぎに家に帰った。
 今日の試合は実際は2対0で負けたのだ。中
地区に出ている他の学校はもっと強いと思うの
で、今後の練習はもっときびしくやらないとだめ
だと思った。

 送ったものより短くなっているが、まとまりはついているので、これでよしとする。
ちなみに、字数は約500字である。 

3.第1ラウンド−② 助っ人

 続いて、②の「釣りに行ったこと」にかかる。次のように指示する。

○ 題は「釣り」とする。
○ 一人で行ったのか、友達と行ったのか。
○ 池はどの辺りにあるのか、また、大きさ
  はどのくらいあるのか。
○ 歩いていったのか、自転車でか。
○ どのくらいの時間釣っていたのか。

 指示の基本は「読み手に様子が分かるように」である。
それは取りも直さず、「いつ、どこで、だれが、なにを、どのように、なぜ」という、
いわゆる「5W1H」を具体的に書くことである。

     「釣り」

部活から帰ってきて、友達といっしょに釣り
へ行った。家から約1.5キロキロメートルくら
いの所だったので自転車で行った。池はテ
ニスコート2面半ぐらいあった。池には、コイ
などの大きな魚はいたけど、小さな魚は、
全く見あたらなかった。それから2時間ぐら
い釣ってはいたけど、全く釣れなかった。釣
り終わってからは、店にいって釣りの道具を
見ていた。5時30分になったら、お母さんに
怒られそうなので、急いで家に帰ってきた。
ぼくは、もう少し良いエサを持っていけば良
かったと思った。

 「インターネット通じて、今こんなことをしている」と話すと、
道場の生徒諸君は一様に関心を示した。
特に興味があるようだったのは、想像によって中身を補充していく部分である。

そこで、何人かに書いてもらった。同世代・同年齢の考えのほうがいいかもしれない。
勇樹君にはよい参考に、道場生にはよい練習になろう。

 600字の原稿用紙の上で想像の翼は広がったようだ。
いつもは直されてばかりいるから、この時とばかりに張り切って筆を進めた諸君もいた。
下に挙げたのはそのうちの2つである。将徳くんは中2、ももちゃんは小5である。

答案例(将徳くん) 答案例(ももちゃん)
     「釣り」

 今日は部活が終わったあと、友達5人といっしょに釣りをしに行った。池はけっこう遠いところにあるので自転車で行った。池の大きさはテニスコート二面半くらい。コイなどの魚の影がよく見えたので、釣れそうな気がした。
 いっしょに来た友達と何匹釣れるか競争することになった。僕は、はりきって竿をふった。かれこれ10分くらいたったが、魚が寄ってくる気配はない。その時だ、すぐ横にいた友達に魚がかかったのは。小さな魚だったが、一匹には変わりない。僕もまけじと当たりがくるのを待った。しかし、一度も当たりさえこなかった。
 2時間くらいたって、みんなで池の近くの釣具店に行くことにした。5匹くらい釣った人もいれば、釣れなかった人もいた。釣れなかった人というのは僕のことだ。
 釣具店に入って、つりの道具を見ていた。日が暮れてきたので時計を見ると、門限近くだった。お母さんに怒られてはたまらないと思い、急いで家に帰った。
 競争には負けたけど、友達といっしょに釣りができたのは楽しかった。でも、やっぱり一人だけ釣れなかったのはくやしかった。敗因はよいエサを持っていかなかったことだ。今度はもっとよいエサを持っていこうと思った。
 
     「釣り」

 テニスの試合は1回戦で負けたので、午前中で終わってしまった。家に帰って、ぼうっとしていると、友達に釣りに誘われた。
 友達2人と3人で自転車で池に向かった。池は家から1.5キロぐらいはなれた所にある。広さはテニスコート2面半くらいだ。池にはコイなどの大きな魚はいたが、小さな魚はぜんぜん見えなかった。いろいろな種類の大きな魚がいたが、ぼくは一番大きな魚をねらった。エサをつけて垂らした。ところが、ねらった魚は見向きもしない。しかも、別の魚にエサを取られてしまった。2時間がんばってみたが、全く釣れずにあきらめた。友達は2人とも大きい魚を5匹も釣っていた。
 エサが悪かったのかと考え、家に帰るとちゅう釣具屋に寄った。1か月ぐらい前にできた新しい店だ。店の前で友達と別れて、しばらく釣り具を眺めた。ミノーやスピナーズベイト、ワームなど、いろいろなルアーがあった。エサもいろいろあって、ぼくが持っているものもあった。さすがは釣具屋さん、ロッドやラインなどもあった。ぼくのおこづかいで買える手ごろなものもあったが、ちょうどお金を持っていなかったので、今度にすることにした。
 時計を見ると5時25分だった。5時半までに家に帰らないと、お母さんに怒られてしまう。自転車を飛ばして帰った。

 勇樹くんには将徳くんが書いたほうを送った。
これは中2の先輩が書いてくれたものだと、ひとこと付け加えておいた。

 2,3日後に、それについての書き直し分が届いた。
勇樹くんの気分が少しほぐれたフシがある。

     「釣り」

 今日は部活が終ったあと、友達といっしょに釣りをしに行った。池は1.5キロほど離れた所にあるので自転車で行った。池の大きさはだいたいテニスコート二面半くらい。コイなどの魚がエサを食べに、陸の近くまで来ていたので、釣れそうな気がした。
 僕は友達といっしょに始めたが、魚がよってくる気配がない。となりの友達もエサだけ取られ逃げられてばかりで、ほとんど当たりがこない。
 3時間ぐらいたち、友達といっしょに池から少し離れた釣具店に行くことにした。今日は二人とも何も釣れなかった。
 釣具店に入り、釣りの道具を見ていた。日が暮れてきたので時計を見てみると、門限近くだったので、お母さんに怒られてはたまらないと思い、急いで家に帰った。
 友達といっしょに釣りができたのはよかった。今度釣りをするときはもっとよいエサをたくさん持っていこうと思った。
     (添削例)





← …食べに、岸の近くまで

← 魚が寄って

← …ばかりで、なかなか釣れない。

 若干の筆を入れて送り返したのは10月の末ごろだった。
 「気分がほぐれたフシ」というのは、下から5,6行目の辺りである。

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4.第2ラウンドー前半

 11月になった。第2回の課題は同じく「きのうあったこと」とする。3日に次の答案が届いた。

 10月31日、九時ごろ起きて、ごはんを食べた。
 ごはんを食べ終わった後、ゲームをやっていた。
 午後からは友達と遊んだ。
 3時ごろに、友達の借りていたテニスコートでテニスをやった。
 6時ごろに帰ってきて、宿題をやった。
 晩ごはんをたべてねた。 

 一つの進歩は、書き出しや段落のはじめを一字下げて書いていることである。
 内容は依然メモ程度であるが、二つの手がかりがある。
③「ゲームをしたこと」と④「テニスをしたこと」である。
 これらについて、ももちゃんが次の質問を出した。

③について
 一、どんなゲームか。
  1.機種は何か。ファミコンか、64か、
   ゲームボーイか、ドリームキャストか。
  2.ソフトは何か。やったものを全部、
   順番に。
  3.それぞれのゲームのルール。
  4.ゲームの経過と結果。
 二、ゲームの感想。

④について。
 一、午後から友達と遊んだことについて。
   どこで、何人で、何をしたか。その様子
   を簡単に。
 二、3じごろからテニスをしたことについて。
   何人で、どんなルールで、何ゲームし
   たか。結果はどうだったか。
 三、学校で練習するときと比べて、気分は
   どうだったか。   

 これを5日に送る。翌日、次の答案が届いた。

     ゲーム、テニス

 朝食を食べ終わって、セガサターンをやっ
た。ソフトは野球のゲームをやった。4時間ぐ
らいやっていて、2勝0敗だった。相手はお父
さんだったので、そんなに点を入れられなか
った。
 午後から友達と遊んでいた。3人で友達の
家でバイオハガードのゲームをして遊んでい
た。
 三時ごろから友達のかりていたテニスコー
トで4人でテニスをやった。ルールはいつもの
試合形式でやった。4ゲームやり、3勝1敗で
勝った。学校では、あまりうたしてもらえない
ので、いつもより楽しくできた。

 これに対して、将徳くんが次の注文をつけた。

③について。
 もっと次のことを書き加えてほしい。
 1.起きたところから書く。
 2.お父さんとゲームをしたことを先にもって
  くる。
 3.野球のゲームはどんな感じのゲームな
  のか。
 4.どのような経過で、どんな結果だったの
  か。
 5.感想。

 8日に送信して、10日に返信があった。

 九時ごろ起きて、ごはんを食べ終わった後お父さんとセガサターンをやった。ソフトは野球のゲームで、オリジナルチームなどが作れる。
 ゲームは2戦2勝した。最初の試合は、同点になったりしたけど、二試合目は、逆転して5対3で勝った。
 お父さんは、けっこう強いので、あまり点を入れられなかったので、もう少し強くなってから、また対戦したい。

 将徳くんの注文に応えてはいるが、まだ短い。次の日に、和哉くん(中1)とももちゃんが補充文を作った。

答案例(和哉くん) 答案例(ももちゃん)
   テレビゲーム

 10月31日、今日は日曜日なので、九時ごろ起きた。雨が降っていたので、外では遊べない。友達から電話もかかってこないので、ごはんを食べた後、お父さんとテレビゲームをした。
 機種はセガサターンで、ソフトは野球ゲームだ。このゲームではオリジナルチームも作れる。僕は巨人が好きなので、巨人軍の選手が主力のチームを作った。お父さんは阪神が好きなので阪神の選手が主力のチームだ。9回では長すぎるので、7回にした。
 第1試合。先取点は僕で、2回に2点を入れた。このまま順調に、3回、4回に1点づつ追加点を入れた。しかし、5回裏に味方がエラーをしたのをきっかけに、たくさんヒットを打たれて、一気に4点を取られて同点にされてしまった。6回表に貴重な1点を取り、裏はきちんとおさえた。7回裏に1点を取られたものの、表に2点を入れていたので、勝った。
 第2試合。先取点を入れたのはお父さんで4回裏に2点取られた。5回表に2点入れて追いついたが、裏の回に1点取られ、リードを許してしまった。6回は裏表とも点が入らず、このまま負けるかと思ったが、7回表にスリーランホームランを打って逆転し、そのまま逃げ切って勝った。
 お父さんはけっこう強いので、あまり点を入れられなかったが、もう少し強くなってから、また対戦したい。
   テレビゲーム

 十月三十一日、九時ごろ起きた。ごはんを食べ終わった後、外を見ると雨が降っていたので、お父さんとテレビゲームをした。機種はセガサターンで、ソフトは野球のゲームだ。このソフトはオリジナルチームが作れて、ぼくもお父さんもチームを1つづつ持っている。僕のチームは「勇樹チーム」で、お父さんのチームは「ゴッドファーザー」だ。ゲームは、お父さんと決めて、2試合することにした。
 一試合目の先攻はジャンケンでぼくに決まった。ホームランをねらって打った。いきなり3本もホームランを打った。出だしはよかったが、3回の裏までくると4対4の同点になった。しかし、ぼくも点を取られないようにしたり、ホームランを打ったりしたので、最後には7対5で勝った。お父さんは「まだもう1試合ある」と強気だった。
 二試合目が始まった。今度はお父さんが先攻だ。お父さんも始めは快調だった。ホームランを2本も打ったのだ。ぼくは点を取れなくて、3対0になってしまった。でも、ぼくも負けてはいられない。どんどん点を取って3対3の同点までいった。勢いがついてきたのでがんばって、ホームランを2本も打った。そして、最後に5対3で勝った。あまり点が入らなかったなあと思ったが、2戦2勝でうれしかった。
 お父さんはけっこう強いので、ぼくはあまり点を入れられなかった。もう少し強くなってから、また対戦したい。

 こういう作業になると、生徒たちは生き生きとする。20字×30行の原稿用紙がきれいに埋まった。
今回はこの二つを送る。果たして、試合の経過はどうだったのだろうか。
 3日後の14日に、書き直しの答案が届いた。

 

     テレビゲーム

 十月三十一日、九時ごろ起きて、ごはんを
食べ終わった後、晴れていたので、だれかと
遊ぼうと思ったが、相手がいなかったので、
お父さんとテレビゲームをすることにした。
機種はセガサターンで、ソフトは野球のゲー
ムだ。このソフトはオリジナルチームが作れ
て、ぼくは三つ作った。ぼくのチームはユウキ
ーズというチームで、お父さんは、ぼくの作っ
た、いそべチームというあまり強くないチーム
を選んだ。ぼくは何ゲームでもよかったので、
二試合することにした。
 一試合目はぼくが先攻にした。ホームラン
をねらって打ったがヒットばかりだった。先に
3点を取ったが6回の裏にホームランを打た
れて3対3となり、同点となってしまったが、8
回の表にヒットをたくさん打って4点を取り、9
回裏にツーアウト満塁というピンチで2本のヒ
ットを打たれ、2点取られたが何とかおさえて
7対5で勝った。
 二試合目が始まった。ぼくは後攻だった。
お父さんは真剣になっていた。お父さんは4
回表に2点を取り、さらに5回表に1点を追加
した。しかしぼくも、負けないぞ!と思い、7
回裏と8回裏に、ぼくの作った「ユウキ」という
選手が二打席連続ツーランホームランを打
ち、9回裏にも1点を取って、5対3で勝った。
ぼくは2戦2勝でうれしかった。
 お父さんはけっこう強いので、あまり点は取
れなかった。もう少し強くなってから、また対
戦したい。
      (添削例)

← 九時ごろ起きた。
← …た後、だれかと遊ぼうと



← …が作れる。
← 「ユウキーズ」

← 「いそべチーム」



← …打ったが、ヒットばかり
← …取ったが、6回の裏に
← …同点となってしまった。しかし、
← …4点を取った。

← …打たれ2点取られたが、何とか




← しかし、「ぼくも負けないぞ」と思
  った。


← ※ 「ぼくは……うれしかった」の
    一文は次の段落のはじめへ移
    す。

5.第2ラウンドー後半

 ④の「テニスをしたこと」の例文は、何人かに書いてもらったが、将徳くんのを送ることにした。
勇樹くんとは相性がいいようなのである。
 登場人物の名前はテレビのアニメ番組から取っている。

答案例(将徳くん)
 午後一時ごろ、野比(のび)君といっしょに
剛田(ごうだ)君の家に行った。TVゲームをし
て遊んだ。2時半ごろ、骨川(ほねかわ)君が
テニスコートを借りてあるから行こうと言って
やってきた。
 場所は市のテニスコートだ。3時ごろに着い
た。ルールはいつもの試合の形式と同じ形式
で、総当たり戦でやることにした。3セット先
取したほうが勝ちになる。午前中は雨だった
ので、コートは少しぬれていた。
 一試合目は骨川君とやり、接戦だった。1セ
ットを先取されたが、2セット、3セット目は僕
が取った。4セット目は取らせてやって決戦に
なった。15対0でリードされたが、僕が連続
で決めて15対40になった。最後は、コートが
ぬれていたおかげで、骨川君がすべったので
勝つことができた。二試合目は野比君とやっ
た。先に僕が2セット取った。余裕を持ってい
たが、1セット取られ、また1セット取られそう
になった。しかし、最後に僕のスマッシュがき
れいに決まって、勝てた。三試合目は剛田君
とやった。剛田君は4人の中で一番強いから
気合を入れてのぞんだ。しかし、ラブゲームで
僕が勝ってしまった。僕がよろこんでいると、
剛田君はどうも気に入らないようで、もう1回
やろうと言ってきた。今度はいとも簡単に負け
てしまった。
 部活の時だとあまりコートで打たせてもらえ
ないので、久しぶりにコートで試合ができてと
ても楽しかった。次は僕が借りて、みんなを呼
んでやろうと思う。
 

 

 この例文もちょうど600字である。
助っ人たちはいずれも30分から1時間で書いている。
 勇樹くんからは次の訂正文が届いた。将徳くんがこれに朱を入れた。
 みんな題を付け忘れていたので、仮に「草テニス」としておく。

     草テニス

 午後一時ごろK君とY君の家に行った。TV
ゲームをして遊んだ。二時半ごろ、Y君がテニ
スコートを借りてあるからテニスコートへ行っ
た。
 場所は近くの住宅団地のテニスコートだ。
すぐ着いてしまったので、テニスコートのとな
りの広場で三時まで遊んでいて、T君がとち
ゅうから来た。コートに入って試合を始めた。
ルールはいつもの試合と同じ形式で、一試合
ずつペアを組みかえながらやった。2セット先
取したほうが勝ちになる。
 一試合目はT君とペアになった。ぼくが前を
守っていたが、相手のミスが多く、ぼくはボー
ルをサーブの時以外さわれなかった。すぐに
2セット取って終わってしまった。二試合目は
K君とペアになった。1セット目はK君のミスが
多かったため、1セットはすぐに取られてしま
ったが、2セット目、3セット目はぼくのせこい
ボレーがきまって、セットカウント2対1で勝っ
た。三試合目はY君とだったが、Y君がやみも
にボカスカ打っていたので、あっさりと2セッ
取られてしまった。四試合目はまたK君とだっ
たが、K君もぼくもがんばったので、1セット目
は4対0のストレート勝ちだった。2セット目は
3対0とリードしたが、気がゆるんだので、ば
んかいされて負けたが3セット目は4対1で勝
った。
 部活の時だとあまりコートで打たせてもらえ
ないので、久しぶりにコートで試合ができてと
ても楽しかった。 
     添削例(将徳くん)

← K君といっしょにY君の家に

← …借りてあるというので、テニス
  コートへ


← …遊んでいた。ちょうど、T君が
  来たので、コートに入って
← …同じ形式で、ダブルスで一試
  合ずつ



← サーブの時以外ボールに











← …負けてしまった。しかし、3セッ
  ト目は4対1で勝って、この試合は
  ぼくたちの勝ちになった。

 「ぼくのせこいボレー」などという言葉が出るようになった。思わず、にんまりとしてしまう。
 勇樹くんは何をどう書けばよいか、具体的に書くとはどういうことか、おおよそ分かったであろう。
少なくとも、どの程度の分量を書けばよいか、見当がついたことと思われる。

 将徳くんの朱の入った答案を返送したのは11月22日であった。
 助っ人の諸君は、将徳くんをはじめ、みんな快く手伝ってくれた。
楽しんで書いた分だけ、自分のためにもなったであろうことは言うまでもない。
 

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6.第3ラウンド

 勇樹君には勢いがついたのだろうか、翌23日、次の答案が届いた。

     カラオケ大会

 11月19日、今日は、学校の主催のカラオ
ケ大会の2日目だった。ぼくたちは、この大
会の抽選でうかってしまった。
 昼休みになると、みんなが体育館に集まっ
てきた。ぼくたちは3人のグループで順番が
3番目に歌うことになっていた。一番目のグ
ループが終わって、2番目のグループになっ
たとき、エラーがおきた。CDの音がでなかっ
たため、ぼくたちのグループが先に歌うことに
なった。とつぜんだったので緊張感が高まっ
た。ステージに出ていって、歌おうとしたが音
が小さすぎたため、タイミングが合わなかった
がなんとか出だしはよかった。しかし、かんそ
うの所は、聞こえずすこし歌詞が歌えなかっ
た。リーダーのN君は、何とかとちゅうで歌い
始めたが、ぼくは緊張のあまり声が出なかっ
た。最後の方にぼく一人で歌うパートがあっ
た。そこは何とか声が出て歌えたが、一部歌
えなかった所が満足いかなかった。最後終わ
ったら、拍手喝采だった。
 ぼくは、カラオケ大会が終わってから、来年
度はもっと練習しようと思った。

 始めの2〜3行で思わず顔がほころぶ。
読み進むにつれてハラハラさせられもする。これはそれだけ中身があるということだ。
最初のメモのような作文を思うと、よくこれだけ書けたものだと思う。
 ちなみに、字数は約500字である。長足の進歩といえる。
しかも、ただ字数が伸びたというばかりではない。ユーモアが漂う。
これが勇樹くんの本領なのかもしれない。

 今回は添削答案に次の講評を付けて送る。
       ーーーーーーーーーー
 おもしろい。読んでいて楽しい。傑作。
歌い手と裏方のタイミングの合わない様子が、かなりよく書けている。
点の打ち方もよくなってきた。直し方の例を参考にして仕上げよう。
 なお、「喝采」という字が書けるなら、
「とつぜん」や「かんそう」なども、辞書を引いてでもよいから、漢字で書こう。
       ーーーーーーーーーー

 この答案は次のように直って返ってきた。11月末のことである。

      カラオケ大会

 11月19日、今日は、学校主催のカラオケ
大会の2日目だった。ぼくたちは、この大会
の出場抽選でうかってしまった。
 昼休みになると、みんなが体育館に集まっ
てきた。ぼくたちは3人のグループで、3番目
に歌うことになっていた。一番目のグループ
が終わって二番目のグループになったとき、
エラーがおきた。CDの音がでなかったため、
ぼくたちのグループが先に歌うことになった。
突然だったので緊張感が高まった。ステージ
に出ていって、歌おうとしたが、音が小さすぎ
たため、タイミングが合わなかった。しかし、
なんとか歌い出せた。ところがかんそうの所
は、聞こえず少し歌詞が歌えなかった。リー
ダーのN君は、何とかとちゅうで歌い始めた
が、ぼくは緊張のあまり声が出なかった。最
後の方にぼく一人で歌うパートがあった。そ
こは何とか声が出て歌えたが、一部歌えな
い所があった。満足いかなかったが、歌が終
わったら、拍手喝采だった。
 カラオケ大会が終わってから、ぼくは、来年
度はもっと練習しようと思った。
       (添削例)



← …抽選に受かって






← …だったので、緊張感が


← ところが、間奏の


 これ以降は1週間に1つを書くということにする。
当方は2,3日のうちに添削して返送する。
そして、それに基づく書き直しは次の答案を出す前ということにした。

 期末試験をはさんで、12月5日に次の答案が届いた。
かなり細かく書いてあり、様子がよく分かる。 

       期末テスト

 12月1日、今日は期末テストの1日目だっ
た。1日目の教科は社会、保体、家庭、技術
だった。ぼくが一番自信のあるやつは社会で、
今日の中で一番若手なのは家庭科であった。
社会は3時間目で、家庭科は2時間目であっ
た。
 1時間目が始まった。1時間目は保体だっ
た。保体はそんなにきらいではないが保健が
少し危なかったが、一応全て書けた。体育は
少しまちがえがあるかもしれないが、全て書
けた。テストが終わってから、ノートなどをみ
ると少しまちがっていた。
 2時間目は家庭と技術だった。ぼくは、始
めに技術をやった。技術はスラスラと解けた
が、家庭に入るといっきにスピードが落ちた。
とけそうでとけない問題があったりした。ぼく
は、やれる所だけやってからわからない問題
をやったが、ぼくが勉強していない所も出て
きた。困っていると、もう終わりの時間になっ
ていた。ぼくは、もう少し家庭科の勉強をすれ
ばよかったなあと思った。3時間目の社会は
自信があったので、余裕だった。
 3時間目が始まり、やっていたが、最初の
方は簡単だった。いきなり難かしくなってきて
勉強をあまりやっていない所が出てきたが、
ちゃんと書けたのでよかった。
 ぼくは、テストをやる前には、もっとしっかり
と勉強しなければならないなあと思った。
       (添削例)



← 自信のある科目は
← 苦手



← …きらいではないが、少し危なかっ
 た。しかし、一応
← まちがい(間違い)




← 家庭科に入ると、一気に
← 解けそうで解けない問題もあった。




※ 「3時間目の…」は次の段落へ。

 2日後に返送し、その3日後に書き直したものが届いた。

       期末テスト

 12月1日、今日は期末テストの1日目だった。1日目の教科は社会、保体、家庭・技術だった。ぼくが一番自信のある科目は社会で、今日の中で一番苦手なのは家庭科である。社会は3時間目で、家庭科は2時間目であった。
 1時間目が始まった。1時間目は保体だ。保体はそんなにきらいではないが、保健が少し危なかった。しかし、一応全て書けた。体育は少しまちがいがあるかもしれないが、全て書けた。テストが終わってから、ノートを見ると、少しまちがっていた。
 2時間目は家庭と技術だった。ぼくは、始めに技術をやった。技術はスラスラと解けたが、家庭科に入ると一気にスピードが落ちた。解けそうで解けない問題もあった。ぼくは、やれる所だけやってから、分からない問題をやったが、ぼくが勉強していない所も出てきた。困っていると、もう終わりの時間になっていた。ぼくは、もう少し家庭科の勉強をすればよかったなあと思った。
 3時間目が始まった。社会は自信があったので、余裕だった。最初の方は簡単だったが、いきなり難かしくなってきた。勉強をあまりやっていない所が出てきた。しかし、ちゃんと書けたのでよかった。
 ぼくは、テストをやる前には、もっとしっかりと勉強しなければならないなあと思った。

 この一連の作文について、すてきな感想が寄せられています。こちらへ。


 このあと、年内は「ポケモン」、「キックベース」、「練習試合」と続く。
このうち、はじめの二つは次のようなものである。
書き直したほうのものであるが、いずれも勇樹くんらしさが出ていると思われる。

     ポケモン

 11月21日に、ゲームボーイのソフトのポケット
モンスターの金と銀が発売された。ぼくは、売っ
ていそうな店に10時ごろに行ったが、全て売り
切れていた。入荷した店には、友達から聞いた
ら、8時くらいからならんでいた人もいるらしくて、
金と銀を合わせて110個がすぐに売り切れてし
まったということだ。ぼくがその店に行ったときに
は、もうすっかり売り切れていた。ぼくはその日、
帰ってきてから一人でかりかりしていた。そのと
き、ぼくは、もう少しポケモンの人気がなくなった
ころに買おうと思った。しかし、どこも売り切れて
いて、人気がなくなるのはほど遠いと思い、次の
売り出しが待ち遠しくなってきた。
 12月11日、この日はCDを買いに「つたや」ま
で出かけた。店までの距離はそんなにないが、
坂が多いので時間がかかる。家を出たのは10
時ちょっと過ぎだった。店に着いたらすぐにCDを
買った。ふと、ゲームソフトのことを思い出してゲ
ームソフトのほうを見に行った。金のソフトだけ
が残っていた。しかし、お金がないので家に帰
った。お金がもったいないと思い、家でしばらく
迷っていた。友達が電話をかけてきて、ぼくのた
めに予約をとっといてくれたので、決心してそれ
を買った。ぼくは、やっと買えたので、すごくい
い気持ちがした。しかも、ぼくの買ったのは残り
の一本だった。ぼくは、こんなに早く手に入った
ので、すごくうれしかった。
     (添削例)

← 「ポケットモンスター」の「金」と「銀」が


← 友達から聞いたら、入荷した店には8
  時くらいから





← …売り切れているほどだから、






← …を思い出して、そのほうを見に
← 「金」のソフト


        キックベース

 12月18日、今日は学校で2時間目にキック
ベースをやった。キックベースは野球とサッカー
がまじったようなゲームで、打つときは足でけっ
て、後は野球と同じルールだ。
 1時間目が終わったら、着がえてすぐに外へ
出た。外はすごく寒かった。クラスの一部の人
が、かべにそって風をよけていた。ぼくもその一
人だった。この時間は道徳なのだが、今度学年
レク大会があり、キックベースが種目に入ってい
るので、その練習に当てられたのだ。
 キックベースが始まった。最初のピッチャーは
ぼくがやった。僕たちは後攻だ。1回の表はぼ
かすか打たれたが、何とか0点におさえた。2回
の裏に先制点がとれた。その後、3回の裏に3
点、4回裏に5点と、どんどん点を入れた。6回
表ぐらいにピッチャーを交代した。その後はどん
どん点を入れられて、10対4だったのが、いつ
の間にか10対10と追いつかれてしまった。そ
して、まだワンアウトだったので、逆転されてし
まいそうになった。
 ぼくのチームの中に中国人が一人いた。その
中国人は二学期に転入してきて、まだ一度もキ
ックベースをやったことがないので、ルールがわ
かっていない。エラーが多いので、みんながギ
ャーギャーとその中国人に文句を言っていた。
ぼくはかわいそうだと思って、やめろと言った
が、まだ文句を言っていた。それに、文句を言
いながらやめる人もいた。最終回は、まだ10対
10のままだった。9回裏、ツーアウト3塁のとき
に、中国人がヒットを打った。サヨナラ勝ちだ。う
ちのチームの人は「やったあ」などと叫んでい
た。
 教室に戻るとき、うちのチームは勝ったが、ほ
とんどの人は満足していないらしく、文句を言っ
ていた。ぼくは、とにかく勝ったので、満足した。
中国人がサヨナラ勝ちにしたのがすごく驚いた。
今日は、とてもおもしろかった。

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7.第4ラウンド

 明けて、2000年。作文は「元旦」、「新しいラケット」、「ポケモンカード」、「練習試合」と続く。
2月に入って「リス」を書いたが、単調さからタネ切れになってきているようでもある。
そこで、思い出をリストアップして、ストックを作っておくことにした。

 こんなときのために、次のような用紙を用意してある。
いつ、どこで、どんなことがあったかを、メモふうに書き出しておくのである。


       あんなこと、こんなこと  

                      名前〔          〕

 一、きれいだな」             二、うれしいな

   ①                        ①

   ②                        ②

   ③                        ③


 三、くやしいな」              四、こまったな

   ①                        ①

   ②                        ②


 五、ゆかいだな」             六、おどろいた

   ①                        ①

   ②                        ②

 七、………



 これを勇樹くんにも課したところ、次のメモが届いた。

     あんなこと、こんなこと

一、「きれいだな」
 ① 家の中から見た大雪山の景色
 ② 夜中に見える星
 ③ 山の上のほうから見えるふもとの景色

二、「うれしいな」
 ① 学校でかまくらを作った。
 ② 動物の飼育をしているところで犬ゾリをした。
 ③ 日本列島ダーツの旅でたまたま白滝に当たったこと。

三、「くやしいな」
 ① やまめ釣りの行事のときに一匹も釣れなかった。
 ② クロスカントリーの大会がふぶきで中止になった。

四、「こまったな」
 ① 雪が降り積もって停電したとき。
 ② 初めのころ一輪車に乗れなかったとき。

五、「おどろいた」
 ① 銃殺されたクマがトラックの荷台にのっていたこと。
 ② ふぶきで前がほとんど見えなかったこと。

六、「かなしいな」
 ① 卒業式
 ② 剣道で全敗した。

 2月の中旬から、順に答案が届き始めた。

それは全て北海道の山村に留学した折りのものであった。
その一つが、例えば、これである。

        大雪山の中の村

 ぼくが山村留学で行った白滝村は、北大雪山系の中にある。山が村の四方に連なっている。そのため、村にはトンネルや峠が多い。山はかなり急で、道路に雪が落ちてこないように雪止めのフェンスがはられていた。
 五月ごろ、春になると、山は少しづつ葉が出てきて、緑が増えてくる。枯れたような幹のこげ茶色と葉の緑が混じりあって、その後、だんだん緑が増えていって、季節は夏へと変わっていく。
 七月ごろ、夏になると、山は全体が緑になり、空き地の草々も鮮やかな黄緑色になる。牛の放牧も始まり、だんだん暑くなってくる。
 九月ごろ、秋になると、緑だった葉も赤く染まってくる。山に太陽の光が当たると、もっときれいに見える。このころになると、虫も少なくなってきて、すずしくなる。そして、雪のふる季節の前に出てくる雪虫と呼ばれる虫が飛び交う。
 十一月ごろ、冬になると、葉が全て落ちてしまい、茶色い山になる。雪虫も、雪がふってくると、いなくなってしまう。雪が積もってくると、山は茶色と白が混じったようになる。
 ぼくは四季の中では秋が一番いい季節だと思っている。山が色を変えて、あざやかな赤い色になるからだ。

 これなら、いっそ「山村留学記」としてまとめたほうがよい。
変わった体験がいろいろありそうだ。それ自体が記録をするに値する。
それにしても、小学6年生でよくも一人で1年間も行っていたものである。
そもそも、なぜそんな所へ行くことになったのか、勇樹くんという人物への興味も湧いてくる。

 そこで、勇樹くんとお父さん、お母さんに「留学記」をまとめることを提案し、
春休みに当時を振り返って、主な出来事を表に書き出しておくことにした。
これを作っておけば、月々2〜3編は書いていくことができるだろう。

 これについては、『勇樹くんの山村留学記/北海道・白滝村』として、ページを改めることにする。
 よって、「作文上達記」はここでいったん締めくくる。


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「勇樹くんの作文みるみる上達記」読んで

 北海道室蘭市の小学校教諭です。
 一人の子どもの作文指導記,たいへん興味深く読みました。ボクの常識から離れた実践でした。それだけに「目からウロコ」で,おもわずしっかり読んでしまいました。

 特に次の2点が,傑出した実践だと思います。
①メモ程度の作文をまず指導者がふくらまし模範作文をつくり、それを本人に添削させたこと。
②さらに、同世代の子どもたちにふくらまし作文を募り、本人との交流をはかり,互いに作文力をたかめていったこと。

 かつて生活綴り方運動の中で「えんぴつ対談」ということが盛んに実践されていたことがありました。子ども相互が「筆談」で話すという方法です。しかし「話し合った方が早いよな」というわけで、実際,いつのまにやら「えんぴつ対談」は廃れてしまいました。ですが,この実践にあるのは「えんぴつ対談」です。
 勇樹くんの個人的な体験を「えんぴつ対談しながらふくらまし共感し合う」ということが,なんともイイ。
勇樹くんの「気分がほぐれ」「明るい勇樹くんが作文に表れてきた」ことを喜び、書き手の勇樹君を励ましている。

 今のところ,担任ではなく理科の専科しか授業をやっていないので、こういう実践に出会うと大変はがゆいのですが,ぜひ校内の先生や,室蘭市の国語部会の先生に紹介させてください。

 〔Jul.17 '00〕

 昨日と今日で、「勇樹君」の進歩の程を拝見いたしました。
 言葉の爆発的な進化を目の当たりにして、若者の力に恐れ入ってしまった次第です。

 こんな言い方をしたら「勇樹君」は怒るかもしれませんが、まるで人類が初めて道具を持ち、それを創り、使いこなして行く過程が、ここにあるようです。 たぶん クルミを割るのに、その辺にある適当な石を拾うところから、自分で意匠をこらした土器を焼き上げるところまでの進化が。

 そうしてみると不思議なのは、これらの言葉は、彼の内部に蓄えられていて、出番を待っていたのでしょうか?それとも、ただ 「起きた」 としか書けなかった彼の内部に何か劇的な変化が起こったのでしょうか?
 ともあれ、触媒となった道場主の手腕に感服いたします。

 人間は、たぶん言葉によって経験するところが大きいのではないかと思います。 としたら、「テニスをした」 というだけの記憶よりは 「僕のせこいボレ−」 と、ほくそえむ思い出の豊かさと、体験を語れる感受性を授けてくれる言葉は、人が生きていく上での財産になりうるのだ、と思ってしまいました。

 なにより、「考える」ことは言葉によってしかできないんですよね。事実を述べるだけだった言葉から、自分の思いを伝えるところまでやってきた「勇樹君」の、これからが楽しみです。

 乱筆乱文は、お許しを。
 それにしても、5年生「ももちゃん」の文章力には脱帽。

(武蔵野のカラスウリ)
〔May 17.'00〕


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コスモスの丘(国営昭和記念公園)